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忍び寄るクレジット・リスクの悪化 逆行高の米国公益株
田中 純平
2022/05/13

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概要

FRBの急激な金融引き締め観測や中国上海のロックダウンに対する警戒感などからS&P500指数は下げ足を速めているが、それと同時に進行しているのが米国企業におけるクレジット・リスクの悪化だ。このクレジット・リスクの悪化等を背景にディフェンシブ性の高い米国公益株が逆行高となっており、S&P500指数における業種別のパフォーマンス格差が広がりつつある。



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S&P500指数はFRBの急激な金融引き締め観測等を背景に下落基調を強める

米国連邦準備制度理事会(FRB)の急激な金融引き締め政策や、中国上海のロックダウンによる悪影響への警戒感などから、S&P500指数は下げ足を速めている(図表1)。前者は主に金利上昇に伴う予想PER(株価収益率)の低下リスクをもたらしており、後者は①「サプライチェーンの制約」→「グローバルなインフレ圧力の高まり」や②「需要鈍化」→「中国/グローバル経済の下方修正リスク」といった物価(金融政策)と景気の両方をにらんだリスクにつながっている。

また、直近では5月11日に発表された米国4月消費者物価指数(CPI)が市場予想の前年同月比+8.1%に対し同+8.3%の上振れとなった(今年3月のインフレ・ピークアウト説にやや疑問符がついた)ことや、暗号資産(仮想通貨)市場においてアルゴリズム型ステーブル・コインが暴落したことなどがS&P500指数の追加的な売り材料になっている。

クレジット・リスクの悪化を受けて米国公益株が逆行高

その一方でジリジリと進行しているのが、米国企業におけるクレジット(信用)リスクの悪化だ。信用格付けが投資適格未満(=投機的格付け)の社債で構成される米国ハイイールド債指数のスプレッド(米国債金利に対する上乗せ金利)は足元で右肩上りとなっており、クレジット・リスクの悪化が目立ち始めている(図表2)。

この米国ハイイールド債指数のスプレッドと連動性が比較的高いのが、S&P500指数における公益株指数の相対パフォーマンス(S&P500公益株指数÷S&P500指数)だ。前述した米国ハイイールド債指数のスプレッドが上昇(=クレジット・リスクが悪化)傾向にある中、米国公益株の相対パフォーマンスも上昇傾向にあることが分かる。電力株に代表される公益株はディフェンシブ性が高い(景気に左右されにくい)事業を運営しているため、投資家が成長株や景気敏感株からの逃避先として公益株へ資金をシフトしている可能性が示唆される。

この状況はS&P500指数の業種別騰落率(過去3ヵ月間)にも表れている(図表3)。一般消費財・サービスや金融、コミュニケーション・サービスや情報技術といった業種が大きく値を下げる中、(原油高等を背景に上昇したエネルギーはさておき)ディフェンシブセクターである公益事業が逆行高になっていることが分かる。指数全体は下落基調をたどっているが、業種別のパフォーマンス格差は広がりつつある。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞歴を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして、主に世界株式市場の投資戦略などを担当。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演。2023年より週刊エコノミスト「THE MARKET」に連載。日本経済新聞ではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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