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米国5月CPIはインフレ・ピークアウト説を覆す 6月FOMCは「要警戒」
田中 純平
2022/06/13

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概要

先週のS&P500指数は①「タカ派的なECBの金融政策」や②「米国5月CPIの上振れ」などをきっかけに急落する展開となった。中でも②は市場に蔓延していたインフレ・ピークアウト説を覆したため、金融市場に与えた衝撃は相当大きい。FRBは物価抑制の観点においてマーケットから「信認」を得るため、今週のFOMCではさらにタカ派メッセージを強化することが予想される。



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米国5月CPIは市場予想に反して伸び率が加速

先週のS&P500指数における週間騰落率は-5.05%と大幅安の展開となった(図表1)。主なきっかけは6月9日の欧州中央銀行(ECB)定例理事会と6月10日に発表された米国5月消費者物価指数(CPI)だ。ECBは7月に0.25%の利上げ方針を示し、9月には0.5%の利上げに踏み切る含みをもたせた。タカ派的なECBの金融政策が嫌気され、9日のS&P500指数は前日比2.38%下落したが、波乱はそれだけではなかった。翌日に発表された米国5月CPIは前年同月比+8.6%と市場予想の同+8.3%を大幅に上回り、ピークをつけたと見られていた3月の同+8.5%も超えた。これを受けて10日のS&P500指数は前日比2.91%下落した。

その米国5月CPIでは、実に幅広い品目においてインフレ圧力が顕在化した。食品(前年同月比+10.1%)やエネルギー(同+34.6%)はさることながら、新車(同+12.6%)、中古車・中古トラック(同+16.1%)、帰属家賃(同+5.1%)、航空運賃(同+37.8%)などは、前年同月比で見ても、また前月比で見ても大きく上昇しており、CPIが5月時点でピークアウトする兆候は見られなった。米国債券市場では米10年国債利回りが一時3.17%まで上昇し、今年5月9日にピークをつけた3.20%まで迫る勢いだった。

フェデラル・ファンド金利から米国CPIを差し引いた実質政策金利は歴史的なマイナス金利

フェデラル・ファンド金利先物市場から算出した市場参加者の利上げ回数予想(1回の利上げ=0.25%)は、米国CPIの上振れを背景に6月9日から10日にかけて大きく上方修正(今年6月:2.1回→2.3回、7月:4.2回→4.6回、9月:5.9回→6.7回)されており、1回当たりの利上げ幅予想を0.5%から0.75%へ引き上げた市場参加者が幾分増えたことがうかがえる。そもそも、米国名目政策金利から米国CPIを差し引いた実質政策金利は歴史的なマイナス金利となっており、米国連邦準備制度理事会(FRB)にとってこの超緩和的な状況を是正させることが喫緊の課題となっている(図表2)。利上げペースが引き上げられたとしても、特段の違和感は無いだろう。

すでに米国の物価急騰は個人の消費意欲を減退させている。今年6月のミシガン大学消費者センチメント指数(速報値)は50.2と市場予想の58.1を大幅に下回り、過去最低を記録した(図表3)。このように消費マインドが大きく低迷する中で過去利上げが行われたケースは無く、米国経済の下振れリスクが高まっていることが示唆される。だが、FRBとしては物価抑制を重視せざるを得ないジレンマに陥っており、マーケットからの「信認」を得るためには、今週の米国連邦公開市場委員会(FOMC)においてタカ派メッセージをさらに強化する必要がある。株式市場の苦難は道半ばだ。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、14年間一貫して外国株式の運用・調査に携わる。主に先進国株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。アメリカ現地法人駐在時は中南米株式ファンドを担当、新興国株式にも精通する。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場をカバー。レポートや動画、セミナーやメディアを通じて投資戦略等の情報発信を行う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBCに出演中。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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