Article Title
調整を続けていた金価格に、変化の兆し
塚本 卓治
2022/08/05

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

金(ゴールド)価格が上昇している。インフレが高止まりするなか景気減速懸念から金利が低下傾向であることに加え、年初からのドル高がドル安に転じていることが背景にある。もともと金にはインフレへの備えに加え、株式や債券とは異なる動きを示す分散効果と、不確実性の高まりへのヘッジも期待される。資産運用において金を組み入れる重要性に改めて注目したい。



Article Body Text

インフレが高止まりするなか、景気減速懸念から金利が低下傾向にある

 金スポット価格は3月上旬に年初来高値(2070.44ドル)をつけた後、7月中旬にかけて調整をつづけ約2割下落したが(1680.99ドル)、再び上昇に転じ、8月1日には一時1トロイオンス1788.05ドルまで上昇した(図表1参照)。

その要因の一つは市場の利上げペースの鈍化観測だ。3月以降の金利上昇やドル高はインフレ抑制を狙った急激な金融引き締めが原因だっただけに、景気減速懸念から今後の金融引き締めペースが鈍化すると予想されると、早いペースでの利上げを織り込んでいた債券利回りは逆に低下したことで、金は買われやすくなる。

 7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ幅が前会合同様の0.75%となり、3月から会合が進むたびに利上げ幅が拡大していた流れが止まった。さらに市場では2023年末にかけての利下げまでも織り込みはじめている(図表2参照)。

期待インフレ率も再び上昇傾向に

 6月の米消費者物価指数(CPI)の上昇率は前年同月比9.1%と40年半ぶりの高さとなった。その一方でエネルギー価格の下落や物流の目詰まりが解消の方向に向かっているなどインフレのピークアウト予想も出始めている。そうした中で、市場の数年先のインフレ見通しは、逆に上昇し始めている。今までの急速な利上げを受けてインフレ見通しが低下しすぎたことと、米連邦準備制度理事会(FRB)が重視している変動の大きいエネルギーと食品価格を除いたコアPCEインフレ率に再び上昇の兆しが出てきたからだ(図表3参照)。

 3月に利上げを開始したFRBはその後利上げペースを加速させたため、物価連動債から算出する今後2年間のインフレ率予想(期待インフレ率)は3月につけたピーク(4.93%)から低下を続け、7月には2.91%まで低下した。この水準は2021年9月に「インフレは一過性だ」といわれていた水準にほぼ匹敵する。このように大幅に低下していた期待インフレ率は、インフレの高止まりの可能性を再び織り込み始め、上昇に転じてきている。また、この期待インフレ率の動きはFOMCにおいても参考にされるクリーブランド連銀が算出しているコアPCEインフレ率予想の動きにも沿った動きとなっている。コアPCEインフレ率予想は、3月にピークをつけたあと低下し続けたが、7月にボトムをつけ再び上昇に転じてきている。

ドル指数は、ドル安に転じてきている

 また、金の売り材料となっていた、年初から進行していたドル高も7月にドル安へと転じてきている(図表4参照)。ドル指数は金利との連動性が高く、年初来の金利上昇によりドル高傾向が続いたが、金利が低下へと転じるとドル安傾向に転じてきている。

 金は各国の外貨準備にも用いられ通貨としての側面を持つことから、ドルの代替資産とも位置付けられている。そのため、ドル高になるとドルの代替としての金の需要が減り、金価格には下落要因となり、反対にドル安になるとドルの代替としての金の需要が増え、金価格の上昇要因となる傾向がある。そのため年初から進行していたドル高は金価格の下落要因となった一方で、足元のドル安は金価格にとり上昇要因となっている。

 以上の金利、期待インフレ、ドルといった金価格の変動要因と今後の見通しを図表5にまとめた。この見通しに対するリスク・シナリオだが、市場の想定と異なり、FRBが急速な利上げを続ける場合だ。その際には、再び金利上昇、ドル高、期待インフレ率低下となる可能性はある。ただし、金利は既にFOMCメンバーによる年末の政策金利水準までの利上げを織り込んでいる。また、期待インフレ率だが、先ほどお示ししたとおり、既に大幅に低下しており、低下余地は限定的だ。

金を組み入れることによる、インフレへのヘッジ、分散効果、不確実性へのヘッジに注目

 もともと金にはインフレへの備えに加え、株式や債券とは異なる動きを示す分散効果と、不確実性の高まりへのヘッジ効果も期待される。米中覇権争いから端を発した世界の分断の進展やリーマンショック以降の大量の流動性の供給の影響など、ロシアによるウクライナ侵攻が起きる前から、世界には様々な構造的なインフレの高止まりの要因が存在している(図表6参照) 。また、ウクライナ問題のみならず、台湾問題など、地政学的なリスクも依然として高い状態にある。

 このように不透明感が高い中、長期的なインフレリスクに備えるために、改めてポートフォリオに金を組み入れる重要性に注目したい。


塚本 卓治
ピクテ・ジャパン株式会社
エグゼクティブ・ディレクター 運用本部 投資戦略部長

日系証券会社にて債券およびデリバティブ業務に従事した後、外資系運用会社および日系ファンド・リサーチ会社にて投資信託のマーケティングを担う。通算20年以上にわたり運用業界で世界の投資環境を解説。ピクテではプロダクト・マーケティング部長等を経て、現職。経験豊富なストラテジストが揃う投資戦略部を統括する傍ら、自らも全国の金融機関や投資家を対象に講演を行う。マサチューセッツ工科大学(経営学修士)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら

MSCI指数は、MSCIが開発した指数です。同指数に対する著作権、知的所有権その他一切の権利はMSCIに帰属します。またMSCIは、同指数の内容を変更する権利および公表を停止する権利を有しています。



関連記事


S&P500指数にみる「原子力ルネサンス」

米利下げでS&P500指数はどうなる?

なぜ生成AI(人工知能)関連株は急落したのか?

S&P500指数が急反発した理由と当面の注目点

日経平均株価が乱高下 パニック相場の真相

米中小型株の復活か?ラッセル2000vsナスダック100