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米国株の上昇トレンドは崩れたのか?
市川 眞一
2022/09/30

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概要

FRBの積極的な利上げを背景に米国株は大きく下落した。市場はインフレの長期化を織り込みつつあるようだ。ただし、名目ベースでの成長トレンドが大きく変化したわけではない。年末へ向けエネルギー価格の物価に与える影響が中立に近付けば、先行きへの悲観的な見方は緩和されるだろう。年内の停滞は避けられないものの、2023年の米国株は回復に向かうと考える。



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米国株:歴史的大相場は終わったが・・・

9月19日に米国商務省が発表した8月の消費者物価統計では、食品、エネルギーを除くコア指数の上昇率が前年同月比6.3%だった。構造的な労働力不足による賃上げが反映され、サービス価格が同6.8%の高い伸びとなっている。この結果を見ると、年末に向けエネルギーの消費者物価に対するインパクトが中立になっても、コア指数は4~5%程度の上昇が続くのではないか。インフレが長期化・構造化するとの観測を背景に、10年国債の利回りは一時4%を上回った。

FRBによる積極的な利上げに加え、長期金利も大きく上昇したことで、米国株は大幅に値下がりしている。S&P500の場合、今年1月3日の史上最高値からの下落率が20%を超えた。これは、新型コロナ感染第1波の下、2020年3月16日の急落を起点とした歴史的上昇局面の終焉を意味するだろう。


もっとも、中長期的に考えた場合、米国株に関する右肩上がりのトレンドは崩れていないと考える。理由は、米国経済の名目成長率が高水準のまま衰えていないことだ。S&P500の趨勢的な動きは、名目GDPのベクトルとの連動制が極めて強いことが知られている(図表1)。



今年に入って、米国は実質ベースでは2四半期連続でマイナス成長となった。一方、4-6月の名目成長率は前期比年率7.8%と高水準であり、個人消費の寄与度が5.6%に達している(図表2)。堅調な雇用と高い賃上げ率を背景に、消費者の財布の紐は絞られていないようだ。



年末へ向けエネルギー要因が中立となり、コア消費者物価上昇率が4%台まで下がれば、実質経済成長率もプラスに転じると見られる。FRBが利上げのフェーズを終えることで、来年の米国株式市場は回復に向かうのではないか。

市場の中身:成長株からバリュー株への転換

年内の調整継続は避けられないとしても、2023年以降に関し、米国株に対し過度の悲観に陥る必要はないと考える。ただし、市場のリード役は大きく変化するのではないか。

1991年12月の旧ソ連崩壊以降、米国主導のグローバリゼーションの下、新興国の工業化の恩恵を受け、米国の物価は安定を続けた。結果として、約30年間に亘り長期金利の低下が続き、リスク許容度の高まりから成長企業への投資が活発化してきたのである。

しかし、国際社会においては、米中両国による覇権争い、そして非資源国と資源国の対立が隠せなくなった。分断の時代はインフレ圧力が強まり易く、金利も高止まりが避けられない。そうした環境下、リスク許容度は限定され、投資対象のバリューがより重視されることになるのではないか。

バリュー主導の相場は、指数の上昇も緩やかになるだろう。
国際社会と共に、市場も大きく変化する可能性が強い。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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