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米インフレ・ピークアウト観測の「死角」
田中 純平
2023/01/11

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概要

1月6日(金)に発表された2022年12月の米ISMサービス業景況感指数や米時間当たり賃金が市場予想を下回ったことから、米国株式市場ではインフレ・ピークアウト観測が再び高まった。しかし、普段あまり注目されることがない「ある」物価指標は足元で上昇率が加速しており、インフレ率がピークアウトしたと判断するには時期尚早の可能性がある。



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米時間当たり賃金の下振れ等で米国株は急反発

米国株式市場はFRB(米連邦準備制度理事会)による金融引締め懸念等を受けて、年末年始は軟調に推移する場面も見られたが、1月6日(金)に発表された2022年12月の米ISMサービス業景況感指数と米時間当たり賃金がそれぞれ市場予想を下回ったことなどを受けて、急反発する展開となった(図表1)。

2022年12月の米ISMサービス業景況感指数は49.6となり、市場予想の55.0を大幅に下回ったほか、好不況の節目である50も割り込んだ。また、同指数の仕入れ価格指数も12月に67.6となり、前月の70.0から低下したことから、景気悪化→インフレ鈍化を同時に連想させるきっかけになったと考えられる(図表2)。

さらに、2022年12月の米時間当たり賃金は前月比+0.3%と市場予想の同+0.4%を下回ったほか、前月分についても同+0.6%から同+0.4%へ大きく下方修正された。これを受けて、3ヵ月移動平均で見た米時間当たり賃金も12月時点で+0.3%となり、賃金上昇と物価上昇がらせん(スパイラル)的に上昇する「賃金・物価スパイラル」への警戒感も後退する結果になった(図表3)。しかし、これをもって米国のインフレがピークアウトしたとみなすのは時期尚早だと考えられる。

米インフレ基調は依然として強い

基調的なインフレ率を反映する指標としては、米クリーブランド連銀が算出する米総合CPI中央値と米アトランタ連銀が算出する米総合Sticky CPI(一度上昇し始めると中々下がりにくい「粘着性」のある品目を集めた物価指標)などが挙げられる。前者は2022年11月に前年比+7.0%となり、前月の同+7.0%から高止まりの状態が続いている。また、後者も11月は同+6.6%と前月の同+6.5%からむしろ加速している。米CPI総合が2022年6月をピークに鈍化傾向にあるのとは対照的な動きになっている(図表4)。

米ミシガン大学インフレ期待(5-10年先)の「平均値」が加速

インフレ期待を測る指標としては、米ミシガン大学の家計調査で算出されるインフレ期待(5-10年先)などが用いられることが多く、通常は「中央値」のデータが参照される。この指数は2022年12月(確定値)に+2.9%となり、前月の+3.0%から低下したことから、個人における長期的なインフレ期待も抑制された状態にあると一般的には判断されるだろう。しかし、普段あまり注目されない同指数の「平均値」は2022年12月に+4.3%をつけ、1996年7月以来の水準まで加速していることはあまり知られていない(図表5)。

総合CPIを中央値で捉えたのと同様に、米ミシガン大学インフレ期待も中央値で捉えるべきだろう。しかし、総合CPIとは違い、米ミシガン大学インフレ期待(5-10年先)は「平均値」自体が加速しており、「中央値」が今後上振れするリスクがあることは念頭に置くべきだ。

今週12日(木)に発表される予定の2022年12月の米消費者物価指数次第で、米国株式市場は大きく乱高下する可能性があるが、インフレ動向については単一・単月のデータだけでなく、幅広く俯瞰的に捉えていく必要があるだろう。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞歴を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして、主に世界株式市場の投資戦略などを担当。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演。2023年より週刊エコノミスト「THE MARKET」に連載。日本経済新聞ではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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