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なぜ日経平均株価は急騰したのか?
田中 純平
2023/05/23

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概要

5月22日(月)の日経平均株価(終値)は前日比0.90%高の3万1086円82銭となり、3万1000円の大台を約33年ぶりに突破した。欧米株と比較しても好調な日本株は、なぜここにきて急騰したのだろうか?その背景には「期待」と「実績」のバランスの良さが指摘される。



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3万1000円を超えた日経平均株価

5月22日(月)の日経平均株価(終値)は、前日比0.90%高の3万1086円82銭となった。3万1000円の節目を超えたのは1990年7月31日以来、約33年ぶりの出来事になる(図表1)。

主要な先進国株式市場の中でも、日本株の相対パフォーマンスは際立っている。2021年12月末から直近5月22日までの株価騰落率を見ると、MSCI日本株指数は11.7%高であるのに対し、MSCI欧州株指数は同2.5%高、MSCI米国株は同12.0%安となっている(図表2)。ここまでパフォーマンス格差がつけば、機関投資家も日本株の「持たざるリスク」を意識せざるを得ない状況だろう。

買いポジションのみでアクティブ運用する「ロングオンリー(Long-only)戦略」の機関投資家は、MSCI世界株価指数(MSCI World Index)をベンチマークとするケースが多い。MSCI世界株価指数は、先進国株式市場で取引可能な銘柄群を浮動株調整後の時価総額加重平均で組み入れたものだ。この株価指数における国別構成比率を見ると、日本株は米国株に次いで2番目に大きい市場となっているが、米国株との規模の差は圧倒的だ(図表3)。

むしろ、機関投資家は英国株やフランス株などをまとめて「欧州株」(構成比率は約2割)として分類するため、残念ながら6%の構成比率でしかない日本株の存在感は極めて低い。長年パフォーマンスが低迷していた日本株を機関投資家が全く保有していなかったとしても、何ら不思議ではないだろう。

なぜ日本株は急騰したのか?

日本株が急騰した理由は、以下の4つが挙げられる。①東京証券取引所によるPBR(株価純資産倍率)1倍割れ銘柄への是正要求を受けた低PBR銘柄の資本効率や収益性の改善期待、②米著名投資家バフェット氏による日本株の追加投資表明を受けた「呼び水効果」、③日銀の実質政策金利が低下したこと、そして④前述した3つの理由等を受け、機関投資家が日本株の「持たざるリスク」を意識してポジション調整(新規買付け又は投資比率の引き上げ)を急いだことだ。

ここで重要な点は、日本株の企業業績見通し(ファンダメンタルズ)が現時点で必ずしも好調とは言えないことだ。日本株の市場予想EPS(1株当たり利益)成長率は、米国株や欧州株と比較して劣後しており(図表4)、EPSリビジョン(市場予想EPSが上方修正された銘柄の割合)も決して上向いているわけではない。

急騰理由の①と②はあくまで観測や思惑であるため、期待先行で日本株が上昇しやすくなっていることが考えられる。一方、期待先行ではなく実績で評価できる急騰理由の③についても見逃せない。

中央銀行の政策金利からコアCPI(消費者物価指数)を差し引いた実質政策金利は、欧米ではマイナス幅が縮小(実質政策金利が上昇)傾向にある。一方、日本では日銀が金融緩和政策を維持する中、足元ではインフレ率が上昇しているため、実質政策金利のマイナス幅が拡大(実質政策金利が低下)傾向にある(図表5)。

一般的に、実質政策金利の低下は株式のバリュエーションに対してプラスの効果(≒株価上昇)が期待できるので、欧米との実質政策金利差が拡大する局面では、日本株の相対パフォーマンスも好調になる可能性が指摘される。「期待」と「実績」がバランス良く相場をけん引したことが、今回の日本株急騰の要因だろう。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞歴を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして、主に世界株式市場の投資戦略などを担当。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演。2023年より週刊エコノミスト「THE MARKET」に連載。日本経済新聞ではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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