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米債務上限問題解決で市場の流動性が低下するワケ
田中 純平
2023/05/31

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概要

米バイデン大統領とマッカーシー下院議長は5月27日、米連邦債務上限の適用を2年間凍結することで基本合意した。しかし、米連邦議会における法案通過に関しては不透明感が高まっているほか、無事に法案が通過したとしても、流動性の観点からは米国株式市場に対して逆風が吹く可能性がある。



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バイデン米大統領と野党共和党は債務上限適用凍結で基本合意

米バイデン大統領(民主党)と米連邦議会のマッカーシー下院議長(共和党)は、米連邦債務における法定上限の適用を2年間凍結することで5月27日(土)に基本合意した。マッカーシー氏は5月31日(水)に連邦議会で採決されると発表しており、法案が無事通過すれば米政府の資金繰りが行き詰まる6月5日の「Xデー」を回避することが可能になる(図表1)。

米国株式市場では、すでに基本合意の可能性が事前に報道されていたこともあり、5月26日(金)のS&P500指数は終値で前日比1.30%高の4,205.45ポイントをつけていた。これでS&P500指数は節目とされていた4,200ポイントを超えたことになる(図表2)。

米債務上限問題はすでに「done deal(解決済み)」がコンセンサスとなっているが、気になる報道も出ている。米ロイターは5月29日(月)、共和党の強硬派の一角がバイデン大統領とマッカーシー下院議長の基本合意に反対する姿勢を鮮明にしており、債務上限法案が議会を通過できるかどうか予断を許さない状況だと報道している。仮に「Xデー」までに債務上限を引き上げることができなかった場合、どのようなシナリオが想定されるのだろうか?

基本的には、最悪のシナリオである「米国債のデフォルト」を避けるため、①米国債の元利払いを他の支払いに優先させながら、債務上限の引き上げ交渉を継続するシナリオや、②Discharge Petition(民主党と一部共和党員が協力して法案採決)を行うシナリオなどが挙げられる(図表3)。これ以外にも複数のシナリオが想定されるので、もしもの時に備えて状況を整理しておくことも重要だろう。

債務上限問題解決後は市場の流動性低下に注意が必要

今年1月19日に米連邦債務の上限である31.4兆ドルに達した結果、米財務省は米国債を発行できない状況に陥っていた。そのため、財務省はFRB(米連邦準備制度理事会)における「一般勘定」と呼ばれる当座預金から資金を取り崩すほか無かった。一見すると悪材料にも見えるが、実は市場全体でみれば「一般勘定」から流動性が供給されたことになるため、株式市場に対してはプラスの影響をもたらしていた可能性がある。

今年1月4日時点から5月22日まで間、米財務省の「一般勘定」は3,617億ドル減少(流動性を供給)した一方、FRB保有証券は3,338億ドル減少(流動性を吸収)した。本来であればFRBの量的引き締め政策によって市場から流動性が吸収されるはずが、米債務上限問題に伴う意図せざる流動性供給が行われた結果、差し引き279億ドル(=3,617億ドル-3,338億ドル)の流動性が反対に供給された計算になる(図表4)。

しかし、米連邦債務上限の引き上げ法案が無事に連邦議会を通過すれば、今度は米国債発行が急増し、市場の流動性が吸収されることになる(図表5)。米財務省の「一般勘定」が1月19日の債務上限到達前の水準まで復元されると仮定すれば、およそ3,600億ドル分の流動性が今後吸収されることになるため、米国株式のバリュエーションにも少なからず低下圧力がかかってくる可能性もあるだろう。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞歴を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして、主に世界株式市場の投資戦略などを担当。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演。2023年より週刊エコノミスト「THE MARKET」に連載。日本経済新聞ではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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