Article Title
FRBに3つの物価上昇リスク FOMCの次なる一手は?
田中 純平
2023/06/16

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

FRBは6月のFOMCで利上げ見送りを決定し、年内2回の追加利上げを示唆した。FRBのコミュニケーション不足もあり、市場参加者はFOMC参加メンバーの見通しに反して年内1回の追加利上げを織り込む状況だが、今後さらに複数回の利上げが行われる可能性もある。



Article Body Text

FOMC参加メンバーは年内2回の追加利上げを想定するが市場はほぼ無視

FRB(米連邦準備制度理事会)は6月13-14日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)で利上げ見送りを決定した。同時に発表されたFOMC参加メンバーの政策金利見通し(2023年末、中央値)は、年内2回の追加利上げが示唆されたことから、市場関係者は今回の金融政策を「タカ派的(利上げ)スキップ」と表現した(図表1)。

もともとジェファーソンFRB理事が5月末の講演で利上げ見送りを示唆していたことから、利上げ見送り自体は市場に織り込まれていた。一方、6月FOMC前の段階では年内1回の追加利上げが市場コンセンサスとなっていたため、年内2回の追加利上げ見通しはネガティブ・サプライズとなってもおかしくなかったが、市場はこれをほぼ無視した格好だ(図表2)。

政策金利に関するFOMC参加メンバーの見通しと市場予想との乖離は、おそらく今回の(ハト派的な)利上げ見送り判断が(タカ派的な)パウエルFRB議長会見と矛盾していたことが背景にあるだろう。パウエルFRB議長はFOMC後の会見で、「ほぼ全てのFRB当局者は年内における追加利上げが適切と判断している」と明らかにしたが、それならなぜ6月のFOMCで利上げを行わなかったのか、釈然としない会見だった。

 FRBには3つの「物価上昇リスク」が立ちはだかる

今のところ市場は年内1回の追加利上げを織り込む状況だが、複数回の利上げが行われる可能性もある。その理由は主に3つ挙げられる。

1つ目は家賃だ。米国の住宅価格が下がれば自ずと家賃の上昇率も鈍化すると見られていたが、米ジロー家賃指数を見る限り、家賃は再加速しつつある(図表3)。ボウマンFRB理事も5月31日に指摘しているように、住宅市場が本格的に回復すれば、家賃に対してさらに上昇圧力が高まることが警戒される。

2つ目は賃金だ。パウエルFRB議長が重視する住居を除いたコア・サービスCPI(通称:スーパーコアCPI)は、賃金上昇による影響を多分に受けるとされる。その賃金上昇率を示す米アトランタ連銀賃金トラッカーは高止まりが続いており、賃金上昇率が鈍化しなければスーパーコアCPIも鈍化しない可能性がある(図表4)。

3つ目は天候だ。エルニーニョ監視海域(Niño3.4)の海面水温の基準値が過去30年平均から上方へ乖離しつつある中、米海洋大気局(NOAA)は6月8日の報告書で異常気象をもたらす強いエルニーニョ現象が今年の冬に発生する可能性を指摘した(図表5)。天候要因でエネルギーや食品価格が上昇すれば、総合CPIも上振れるリスクがある。

FRBは昨年3月から累計5%の利上げを急ピッチで行ってきたが、利上げの打ち止め時期は依然として不透明だ。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞歴を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして、主に世界株式市場の投資戦略などを担当。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演。2023年より週刊エコノミスト「THE MARKET」に連載。日本経済新聞ではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


S&P500指数にみる「原子力ルネサンス」

米利下げでS&P500指数はどうなる?

なぜ生成AI(人工知能)関連株は急落したのか?

S&P500指数が急反発した理由と当面の注目点

日経平均株価が乱高下 パニック相場の真相

米中小型株の復活か?ラッセル2000vsナスダック100