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米国株は大幅安 超大型成長株の行く末は?
田中 純平
2023/10/27

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概要

年初来で米国株式市場の上昇をけん引してきた超大型成長株(マグニフィセント・セブン)の値動きが足元で冴えない。きっかけは米長期金利の急上昇と23年7-9月期決算だ。特に気掛かりなのが米長期金利の上昇であり、パウエルFRB議長は「ターム・プレミアム」の拡大が影響した可能性を指摘する。



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米長期金利上昇と7-9月期決算をきっかけにマグニフィセント・セブン急落

年初来で米国株式市場の上昇をけん引してきた超大型成長株の値動きが冴えない。きっかけは米10年国債利回りの急上昇だ。アップル、マイクロソフト、アマゾン・ドットコム、エヌビディア、アルファベット、メタ・プラットフォームズ、テスラの超大型成長株7銘柄で構成されるマグニフィセント・セブン(壮大な7銘柄)指数は今年8月ごろから軟調に推移しており、ちょうど米10年国債利回りが4.0%を超えたタイミングと重なる(図表1)。

おそらく金融市場では米10年国債利回りの「天井」 が4.0%だという暗黙のコンセンサスが形成されていた可能性がある。実際、ブルームバーグが集計した23年9月末時点における米10年国債利回りの市場予想(中央値)は、23年10-12月期の4.1%がピークでその後は緩やかに低下する見通しとなっていた(図表2)。

また、年初から7月までのチャートを見ても、同期間は4.0%があたかも天井のように見えていたことが分かる。米国株式市場にとって、4.0%を超える米10年国債利回りの上昇が「ネガティブ・サプライズ」になったとしても、無理はないだろう。

さらに追い打ちをかけたのが23年7-9月期の決算だ。先陣を切ったのは10月18日に決算を発表したテスラ。23年7-9月期決算の1株当たり利益(EPS)は市場予想を下回り、注目された「サイバートラック」の黒字化には長い時間がかかるとしたことなどから、翌日の株価は前日比9.3%下落した。一方、10月24日引け後に発表されたマイクロソフト決算では23年7-9月期EPSが市場予想を上回り、生成AIの早期収益化を印象付けたことなどから、翌日の株価は同3.1%上昇した。だが、同日引け後に発表されたアルファベット決算は23年7-9月期EPSこそ市場予想を上回ったものの、生成AI需要等がけん引するクラウドコンピューティング部門の営業利益が市場予想を下回ったことなどが嫌気され、翌日の株価(クラスA)は同9.5%も急落した。さらに、10月25日引け後に発表されたメタ・プラットフォームズ決算も23年7-9月期EPSが市場予想を大きく上回ったが、決算発表会見で同社の最高財務責任者(CFO)が24年の収入見通しが不透明だとコメントしたため、翌日の株価は同3.7%下落した(図表3)。 

米タームプレミアムに拡大余地?

米10年国債利回りが瞬間的に5.0%台をつけた10月23日、米著名投資家のビル・アックマン氏はメディアX(旧ツイッター)への投稿で米30年債のショートポジションを買い戻したことを明らかにし、その後は米10年国債利回りが4.8%台まで急低下する場面があった。しかし、10月25日には米9月新築住宅販売件数が市場予想を上回ったことなどから再び4.9%台まで上昇、米国株式市場はマグニフィセント・セブンを中心に急落する展開となった。

はたして米10年国債利回りはどこまで上昇するのか?パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は、米長期金利上昇の背景に「ターム・プレミアム(満期の長い債券に要求される上乗せ金利)」の拡大が影響した可能性を指摘する。NY連銀のエコノミストらによる推計値では、10月25日の米10年国債の「ターム・プレミアム」は+0.45%程度であり、歴史的に見てまだまだ拡大余地が残されている(図表4)。当面はさらなる米10年国債利回りの上昇にも警戒が必要だろう。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、14年間一貫して外国株式の運用・調査に携わる。主に先進国株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。アメリカ現地法人駐在時は中南米株式ファンドを担当、新興国株式にも精通する。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場をカバー。レポートや動画、セミナーやメディアを通じて投資戦略等の情報発信を行う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBCに出演中。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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