Article Title
トランプ氏の再選リスク 「もしトラ」の現実解は?
田中 純平
2024/01/18

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

1月15日の米アイオワ州共和党党員集会でトランプ前大統領が圧勝した。アイオワ州の党員集会は大統領選の共和党候補者を決める初戦であり、今年11月5日の米大統領選までまだ約10カ月もあるが、米国株式市場では早くもトランプ関連銘柄を物色する動きが強まっている。もしトランプ氏が再選された場合、米国政治はどのように変貌するのか?当レポートでは「もしトラ」の現実解を探る。



Article Body Text

米アイオワ州の共和党党員集会でトランプ前大統領が勝利

今年11月の米大統領選挙における共和党候補者を決める初戦となったアイオワ州の党員集会で、トランプ前大統領が圧倒的な勝利を収めた。現地1月15日夜に行われたアイオワ州党員集会の結果は、トランプ氏が51.0%の得票率でトップとなり、2位のデサンティス・フロリダ州知事(21.2%)と3位のヘイリー元国連大使(19.1%)を大きく引き離した(図表1)。事前にある程度予想されていたとは言え、改めてトランプ氏の根強い人気を印象付けた格好だ。

共和党候補者の指名争いの道のりは長い。今年7月に開催される共和党全国大会までに、2,429人のうち少なくとも1,215人の代議員を確保する必要がある。代議員は州ごとに割り当てられており、アイオワ州では40人、1月23日に予備選挙が行われるニューハンプシャー州は22人だ。最も多くの予備選挙/党員集会が同時に実施されるのが3月5日のスーパーチューズデーで、16の州/米自治領で合計874人の代議員がこの日だけで割り当てられる(図表3)。獲得できる代議員数は、1月15日から3月5日までの累積でも過半数には届かないが、この日で指名争いの流れが概ね決まると言われている。

一方、民主党候補者はバイデン現大統領が有力視されている。指名者候補の戦いは最後まで分からないが、大統領選挙は今のところバイデン現大統領とトランプ前大統領の戦いになることがコンセンサスとなっている。政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」が集計した各種世論調査によれば、全米支持率は1月17日時点でトランプ氏が45.9%、バイデン氏が44.6%とトランプ氏がややリードしている(図表2)。「もしトラ(もしトランプ氏が再選)」となった場合、米国政治はどう変わるのだろうか?

外交・貿易・気候変動政策の変貌

外交面ではNATO(北大西洋条約機構)離脱やウクライナ支援の打ち切りが一部で警戒されている。だが、米議会が昨年12月に可決した2024年度のNDAA(国防権限法)には、大統領がNATO離脱を決める際の条件として議会との事前協議を義務付ける条項が盛り込まれており、仮にトランプ氏が再選されたとしてもNATO離脱は容易ではない。一方、ウクライナ支援に関してはすでに予算が枯渇した状態だ。トランプ氏の再選可否に関わらず追加支援の目途は立っていないことから、地政学リスクが今後ますます高まりかねない点には注意が必要だろう。

貿易面では保護主義的な措置がいっそう強化される可能性がある。トランプ氏は米国の輸入製品に原則10%の関税をかける構えを示す。現在の平均関税率は3%強とも言われており、実現すれば物価や景気への悪影響は避けられないだろう。また、中国に対しては最恵国待遇に相当する「PNTR(恒久的正常貿易関係)」を剥奪する可能性もあり、その場合も輸入関税率の引き上げにつながる。

気候変動対策にも先行き不透明感が漂う。トランプ氏はパリ協定から再離脱する可能性があるほか、化石燃料への投資を増やし、電気自動車や再生可能エネルギーへの転換を後押しする規制や補助金を撤廃するとも言われている。バイデン大統領が2022年8月に成立させた「IRA(インフレ抑制法)」に関しては、テキサス州やワイオミング州などの共和党支持者が比較的多い州でもその恩恵が享受されているため、完全撤廃は想定しづらい。しかし、部分的な縮小は視野に入れる必要があるだろう。

トランプ関連銘柄には早くも物色の動きが強まる

アイオワ州の共和党党員集会の結果が明らかとなった1月16日のS&P500指数は、市場の大幅な利下げ観測をウォラーFRB理事が牽制(米10年国債利回りは上昇)したこと等から軟調に推移した。市場全体では今回のトランプ氏勝利はさほど材料視されていないように見えるが、トランプ関連銘柄には早くも物色の動きが強まっている。

1月16日は、トランプ・メディアとの合併後に同社上場を目指すSPAC(特別買収目的会社)のデジタル・ワールド・アクイジション(DWAC)や、20年の大統領選でトランプ陣営のキャンペーンを手掛けたソフトウェア会社のファンウェア(PHUN)、保守系動画プラットフォームのランブル(RUM)などのトランプ関連銘柄が急騰した一方、ファースト・ソーラー(FSLR)やサンノヴァ・エナジー・インターナショナル(NOVA)、サンラン(RUN)といった太陽光発電関連銘柄が急落した(図表4)。

アイオワ州の党員集会で大差をつけて勝利したトランプ氏の躍進は、株式市場において「もしトラ」を意識させるきっかけになったと考えられる。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、14年間一貫して外国株式の運用・調査に携わる。主に先進国株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。アメリカ現地法人駐在時は中南米株式ファンドを担当、新興国株式にも精通する。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場をカバー。レポートや動画、セミナーやメディアを通じて投資戦略等の情報発信を行う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBCに出演中。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


原油高と物価高が引き起こす米国株の地殻変動

超長期の上値抵抗線を突き抜けたS&P500指数

最高値更新のS&P500均等加重指数が示唆するもの

いまはバブルなのか?米IPO市場からヒントを探る

米株高の「資産効果」で個人消費は上振れか?

米国株の上値余地は?利益成長率から考察