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いまはバブルなのか?米IPO市場からヒントを探る
田中 純平
2024/03/08

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概要

生成AI(人工知能)ブームをきっかけとした米国の半導体関連銘柄の急騰が、一部の市場関係者の間でITバブルを彷彿とさせている。米国株式市場はいまバブルなのか?その判断材料の1つとして挙げられる米国のIPO(新規公開株式)市場からヒントを探る。



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米半導体株の急騰が「バブル」を彷彿

米国株式市場の代表的な株価指数であるS&P500指数は急ピッチな上昇が続く(図表1)。同指数の市場予想PER(株価収益率、12カ月先)は足元で20倍台であり、バブルが指摘されるほどの水準では必ずしもない。しかし、生成AI(人工知能)ブームをきっかけとした半導体関連銘柄の急騰が、一部の市場関係者の間でITバブルを彷彿とさせているようだ。

足元の米国株式市場が「バブル」か否かを判断する材料は数多くあるが、今回はその1つとして挙げられるIPO(新規公開株式)の動向にスポットライトを当ててみたい。

1990年代後半の米国のIPO動向を振り返ると、当時はかなり活況を呈していたことが分かる。IPO件数は年間数百件にものぼり、今とは桁違いの数の銘柄が日々上場していた(図表2) 。

米国では1993年のクリントン政権時代に、全てのコンピュータを光ケーブルなどの高速通信回線で結ぶ「情報スーパーハイウェイ構想」が立ち上がり、その後はインターネットの普及と相まってIT関連のスタートアップ企業が数多く誕生した。これが1990年代後半のIPOブームにつながった。

特徴的なのは当時のIPO銘柄の社名だ。1990年代後半(特に1999年)には社名に「.com(ドットコム)」を冠した企業が相次いで上場し、文字通り「ドットコム・バブル」となった(図表3)。

一方、2020年以降に上場した企業で社名に「AI(人工知能)」がついたケースは、わずか数銘柄にとどまっている。当時のような「お祭りムード」は今のところ皆無だ。

米国のIPO市場が停滞していることも問題

米国のIPO市場においてバブル的な状況が発生していないことはポジティブだが、そもそも米国のIPO市場がここ数年来停滞していることも問題だ。 2022年から米国のIPO市場が停滞した要因としては、①米国の長期金利上昇、②米国の超小型株市場の低迷、③主要IPO銘柄の急落、などが挙げられる。

1990年代後半の米10年国債利回りは年々低下傾向にあったが、2022年以降は反対に上昇傾向となっており、市場環境は大きく変化した(図表4)。

一般的な株主資本コストの計算式には米国の長期金利(リスク・フリー・レート)が使用されているため、未上場企業にとって長期金利の「先高観」が株式公開を躊躇させる要因になっていたと考えられる。

また、米国の超小型株市場が低迷した影響も大きい。2024年3月7日時点の米ラッセル・マイクロキャップ(超小型株)指数は、最高値をつけた2021年3月12日から配当込みで約22%下落した状態にあり、S&P500指数と比較したパフォーマンス格差が顕著となっている(図表5)。

生成AIブームを背景に一部の大型成長株が株高をけん引するS&P500指数と異なり、金利上昇による悪影響を受けやすい超小型株にとっ ては逆風の環境が続いていたことになる。

さらに、2021年以降に上場した主要銘柄の直近の株価がIPOした当時の公募価格を下回っていることもマイナス材料だ(図表6)。

半導体受託製造企業のグローバルファウンドリーズの株価騰落率(IPO公募価格比)はプラスとなったが、それ以外の銘柄は軒並み下落している(注:ARMホールディングスは英国企業のため除外)。このような状況を受けて、未上場企業の経営者がIPOに対して及び腰になっていたとしても不思議ではないだろう。

今のところ米国のIPO市場においてバブルの兆候は見られない。しかしそれは、米国株式市場の二極化(大型株優位の)現象を映す鏡に過ぎないのかもしれない。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、14年間一貫して外国株式の運用・調査に携わる。主に先進国株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。アメリカ現地法人駐在時は中南米株式ファンドを担当、新興国株式にも精通する。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場をカバー。レポートや動画、セミナーやメディアを通じて投資戦略等の情報発信を行う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBCに出演中。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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