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超長期の上値抵抗線を突き抜けたS&P500指数
田中 純平
2024/03/22

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概要

3月のFOMCでは事前予想に反して「ハト派」サプライズが飛び出したことから、3月20日のS&P500指数は史上最高値を更新したほか、超長期の「上値抵抗線」も明確に超える展開となった。FRBの金融緩和期待や生成AI経済圏の拡大という2つのけん引役によって、上昇トレンドが今後も継続する可能性が高まったと考える。



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3月FOMCは「ハト派」サプライズ

S&P500指数は3月20日に前日比0.89%高、終値で5,224.62ポイントをつけ、史上最高値を更新する展開となった。きっかけは3月19-20日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)の結果だ。

政策金利は市場予想通り据え置きとなったが、20日に発表されたFOMCメンバーの政策金利予想を示す「ドット・チャート」で、24年の利下げ回数予想が市場予想に反して年3回(中央値)で据え置かれたことがサプライズとなった(図表1)。

米国の景気や物価の上振れ傾向を受けて、市場ではFOMCメンバーが24年の利下げ回数予想を年2回へ下方修正するのではないかとの警戒感が直前まで広がっていた。

実際、今回発表されたFOMCメンバーの経済見通しでは、24年の米実質GDP成長率の予想が前回(23年12月)の+1.4%から今回+2.1%へ、米コアPCE(エネルギーと食品を除いた個人消費支出物価指数)も前回の+2.4%から今回+2.6%へそれぞれ上方修正された(いずれも10-12月期の前年同期比)。それにもかかわらず、今回のFOMCでは年3回の利下げが引き続き示唆されたことから、FRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策はかなり「ハト派(金融緩和に積極的)」と解釈された。

S&P500指数は超長期の上値抵抗線を突き抜けた

この3月のFOMCの結果を受けて、S&P500指数はこれまで心理的な節目となっていた5,200ポイントの大台を超えてきた(5,200ポイントという水準は、米国株に対して当初最も強気だった某ストラテジストの24年末時点の目標株価)。さらに、今回は超長期の「上値抵抗線」を超えてきた点においても、インプリケーションがあると考えられる。

S&P500指数の2000年3月24日と2022年1月3日の終値(高値)を直線で結ぶと超長期の「上値抵抗線」が引ける(図表2)。S&P500指数はちょうどこの「上値抵抗線」を3月20日に明確に超えてきたことから、ここもとの上昇トレンドが今後も継続する蓋然性が高まったとも解釈できる。

もちろん、テクニカル分析で語れるほど相場の世界は甘くないことは重々承知している。しかし、前述した3月FOMCの結果を受けて、米国株の金融相場入りのシナリオが濃厚になってきたことは、テクニカル分析上のシグナルを補完する上でも見逃せない点だろう。

S&P500指数の市場予想PERはさらに上昇する可能性も

S&P500指数の足元の市場予想PER(株価収益率、12カ月先)はすでに21.1倍となっており、割高感は否めない(図表3)。

しかし、過去に市場予想PERが20倍以上をつけた局面は、FRBが金融緩和を行っていた時期と重なる。市場の想定通り年内にFRBが利下げを開始し、量的引き締め政策についても縮小(ないし停止)が見通せる段階になれば、市場予想PERがさらに切り上がっても不思議ではない状況だ。

エヌビディアを中心とした生成AI経済圏の拡大にも期待が高まる

エヌビディアのジェンスン・ファンCEO(最高経営責任者)は3月18日の「GTC(開発者会議)」で基調講演を行い、AI(人工知能)向け新プラットフォーム「ブラックウェル」を発表した。この新プラットフォームには2080億個のトランジスタがあり、現行のプラットフォーム「ホッパー」よりも処理能力が5倍に上がったという。さらに、「ブラックウェル」プラットフォームのGPU(画像処理装置)である新製品「B200」を2基、エヌビディアのグレースCPU(中央演算処理装置)を1基接続した「GB200」を36個搭載した「GB200 NVL72」は、現行製品「H100」を72個搭載したものと比較して、AI推論では30倍に性能がアップグレードされたことが示された。

この基調講演が行われた翌日(3月19日)のエヌビディア株は一時利益確定売りに押される場面もあったが、3月19日に行われたアナリスト向けの会議では①データセンター向けでマーケット・シェアをさらに獲得できる可能性について言及があったことや、②大企業向けのソフトウェア(NIM)に対する市場の期待が高まったことなどを受けて、株価は前日比1.07%高で引ける展開となった(※3月20日はFOMCを受けて続伸)。

今回のGTCで特徴的なのは、IT業界以外の企業や政府機関がエヌビディア製品を使用していることが表明した点だ(図表4)。いま現在進行中の生成AIブームがIT業界だけにとどまらず、幅広い業種や政府機関を巻き込みながら「生成AI経済圏」が急拡大していることを印象づけた格好だ。

このように、FRBの金融緩和期待と生成AI経済圏の拡大という2つのドライバーが株式市場の上昇をけん引する蓋然性が高まっている。超長期の上値抵抗線を突き抜けたS&P500指数は、新たなフェーズに入った可能性がある。

 


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞歴を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして、主に世界株式市場の投資戦略などを担当。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演。2023年より週刊エコノミスト「THE MARKET」に連載。日本経済新聞ではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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