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より明確な金利予測を導くための「テイラー・ルール」の修正
2024/05/08

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概要

今年の金利はどのように推移するかとの問いに、ピクテが開発した修正版「テイラー・ルール」が答えてくれるかもしれません。



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資産クラスが何であれ、金融政策は投資収益に大きな影響を及ぼしますが、政策金利の行方を予測することは容易ではありません。インフレの鈍化が進む中、米国とユーロ圏の利下げの時期や幅を巡って議論が交わされる足元の状況を考えると、今年は予測が特に難しいと考えます。

金利の動向の予測に有効な手段の一つが「テイラー・ルール」です。テイラー・ルールは、1993年に米スタンフォード大学のジョン・テイラー教授が提唱した計算式ですが、今でも、中央銀行の信認が揺らぎかねない状況で金融政策を予測する、最も有用なモデルの一つです。テイラー・ルールの強みは、その簡潔さにあり、「名目政策金利の適正水準は、現時点のインフレ率と中央銀行の目標インフレ率の乖離幅(インフレ・ギャップ)、現時点のGDP(国内総生産)成長率と長期のトレンド成長率との乖離幅(需給ギャップ)のそれぞれに係数をかけて、均衡実質金利に加減した数値に近似するはずである」ことを示しています。

テイラー・ルールは簡潔であるがゆえに、また、中央銀行が注視する要因が、GDP成長率とインフレ率以外にも数多くあることから限界を伴います。ピクテは、弊社が独自に考案した「修正版テイラー・ルール」が、元のテイラー・ルールよりも実際の状況をうまく説明すると考えます。

ピクテのモデルは、2024年内に予想される米国とユーロ圏の利下げ幅が、足元の金融市場に織り込まれている利下げ幅よりは大きく、テイラー・ルールから導かれる利下げ幅よりは小さくなることを予測しています1。また、マイナス金利政策を解除したばかりの日本銀行(日銀)が、比較的緩やかな利上げを行うことを示唆しています。




米国経済は景気拡大局面の後期にあって、2024年後半には、経済活動の急激な縮小が予想されるため利下げが示唆されますが、根強いインフレと労働市場の需給の逼迫が続く状況を勘案すると、米国経済の減速が米連邦準備制度理事会(FRB)の積極的な利下げを促すほど深刻なものではないことには留意が必要です。ピクテのモデルはこうした状況を踏まえ、2024年末のフェデラルファンド・レート(FF金利)の誘導目標が、足元の水準を100ベーシス・ポイント(1.0%)程度下回る4.3%に低下するものと予測しています1。ピクテのモデルが示唆する利下げ幅は、金融市場に織り込まれた60ベーシス・ポイント(0.6%)よりは大きく、テイラー・ルールの予測よりは小幅です。

欧州中央銀行(ECB)にとって、足元のインフレ率は、歴史的に懸念されてきた範囲内で推移しています。そのため、従来のテイラー・ルールが示すよりも緩やかな緩和となり、政策金利の一つである中銀預金金利が足元の4%から2.3%に低下して今年を終えると、ピクテのモデルは示唆しています1。米国については、FF金利が3%をやや上回る水準で2024年末を迎えると見る市場は、恐らく、緩和の幅を過小評価しているものと考えます1

日本については、ピクテのモデルによると、日銀が2024年末までに0.3%までの利上げを行う可能性があることを示唆しています1。為替レートに対する配慮、より正確に言うならば、利上げが急激な円高をもたらすとの見通しが、これ以上の積極的な利上げを阻む公算が大きいと考えます。

一方、スイスの場合は状況が全く異なります。テイラー・ルールとピクテのモデルの両方が、スイスの政策金利は現行水準から引き上げられるべきであること、また、スイス国立銀行(中央銀行)が金融政策の正常化プロセスを2023年中に終了していなかったことから、2024年3月の利下げは妥当ではなかったこと、を示唆しています1。スイス国立銀行は、3月の利下げはリスク管理の観点から行ったものであり、利下げを行わず、もう一段のスイスフラン高を容認してしまうことのリスクが最も重要だとの判断に至ったことを示唆しています。現行の金融政策とピクテのモデルが示唆する水準の乖離は、これまで、乖離幅が小さく、相関性が見られていたのとは対照的に、スイス国立銀行の金融政策が新しい時代に入りつつある可能性を示唆しています。

 

モデルの焦点

以下では、どのような経緯で結論に至ったかを解説します。

まず、テイラー・ルールが線形モデルであるのに対して、中央銀行の金融政策はそうではないことを調整する手段を検討しました。名目GDP成長率の50ベーシス・ポイント(0.5%)の変化に対する金利の変動幅は、実際のGDP成長率の水準によって異なります。例えば、FRBはGDP成長率が潜在成長率を上回っていて利上げが必要とされる時には、GDP成長率が潜在成長率を下回っていて利下げが必要とされる時よりも、積極的に反応する傾向があることが分析から確認されます。また、GDP成長率とインフレ率以外にも考慮すべき要因があります。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)直後の時期について考えてみましょう。テイラー・ルールによれば、FRBは2021年のうちに、緩やかな利上げを開始すべきだったことになりますが、コロナ後の景気回復の不確実性に直面したFRBは、ウクライナ紛争に起因するインフレ急騰後の2022年3月まで利上げに踏み切りませんでした。

このことが示しているのは、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)にかかわらず、二つとして同じ状況はなく、毎回、異なる政策反応を誘発する可能性があるということです。

更に、将来のGDP成長率やインフレ率の予想は、一つの明確な数値またはパラメーターではなく、確率の範囲で示されることが多いということも重要です。

インフレ率、ひいては中央銀行の金融政策との強い相関関係を有する為替レートも重要な要因です。為替レートは、FRBにとっては、他国の場合ほど重要ではありません。米国は比較的、閉鎖された経済大国であり、為替レートの変動に対する感応度が高くないからです。一方、ECBにとっては重要な要因であり、ユーロがインフレ調整ベースで2.5%以上、増価した時には積極的な利下げを行う傾向があったことが認められています。

テイラー・ルールは、こうした複雑な状況を説明することが出来ない、おおまかな数式です。そうでなければ、数式から導かれる結論は精度を増すと考えます。

ピクテの修正テイラー・ルールは、通貨の変動ならびに為替レートとインフレ率の双方向の相互作用を考慮した、非線形でセミ・パラメトリックな手法を用いたモデルです。

日本の場合は、日銀の金融政策における資産買入の重要性を説明する変数、即ち、M4(広義のマネーサプライ)の伸びを加えています。M4の伸びを通じて、資産の買入がより広範な経済に波及することを示すためです。日銀はインフレ率が低い時よりも高い時に、遥かに積極的な対応を行ってきました。また、M4の大幅な伸びの影響を、金融引き締めで相殺する傾向が確認されています。

ピクテでは対象とする国によって違いはあるものの、1980年代後半以降のデータを用いて修正モデルを構築した後、2014年から2019年末までのデータを用い、一回ごとに4四半期先を予測するバックテスト(アウト・オブ・サンプル・テスト)を行って、モデルの有効性を確認しました。ピクテの分析からは、米国、ユーロ圏、日本ならびにスイスの場合、平均して、修正テイラー・ルールの方が従来のモデルよりも正確に金融政策を予測し、二乗平均平方根誤差(RMSE:モデルの予測値と実際の値の誤差)が小さかったことが示唆されました(図表2)。また、3ヶ国とユーロ圏のいずれの場合にも、誤差の水準が1.2以下と低めだったことにも励まされました。




過去30年間のデータを分析した結果、主要先進国および新興国の中央銀行に最も適切なテイラー・ルールの仕様は、インフレ率と為替レートの相互作用項を組み込み、日本の場合には、更に、M4の伸びの項を加えた、非線形のセミ・パラメトリックモデル2であることが分かりました。

また、アウト・オブ・サンプルを使った統計分析からは、殆どの場合、線形かつパラメトリックなテイラー・ルールよりも、リアルタイム・データを使った修正モデルの方が、中央銀行の次回の金利判断について、より正確な予測を可能にすることが示されました。

ピクテの修正テイラー・モデルは、今後1年間について、中央銀行の慎重な行動を反映し、米国と欧州では従来のテイラー・ルールが示唆する利下げ幅よりも控えめなものになること、また、日本では抑制されたペースでの利上げを行う公算が大きいことを示唆しています。このことは、バリュエーションや投資判断のための基盤を強化する、新たな知見を提供すると考えます。

 

 

[1] 2024年4月8日時点の市場価格、および予想。

[2] セミパラメトリックモデルとは、パラメトリックな構成要素とノンパラメトリックな構成要素(パラメーターの代わりに変数の平滑関数を推定する)の両方を含む統計モデルである。


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