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抗肥満薬の効果を測定する
2025/05/09

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概要

GLP-1(グルカゴン様ペプチド1)による肥満症治療の次のステージは、単に体重を減らすことだけではありません。



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過去2年間にアメリカ人の約8人に1人がオゼンピック(Ozempic)などの減量薬を服用したと推定されており、その普及はかなりの経済的恩恵をもたらし、医療、食品、レジャー産業を再編成する可能性があります。

これは、ヘルスケア、バイオテクノロジー、消費関連、栄養関連などの株式で総額105億米ドル以上の資産を運用するピクテの専門家チームが行った調査1で明らかになりました。

新しい抗肥満薬の開発状況を精査した結果、次世代の治療薬は現在と比較して主に次の3点で改善が見込まれ、治療対象となる患者の範囲が拡大する可能性があると見られます。

まず、副作用の軽減が期待できます。

現在のGLP-1(グルカゴン様ペプチド1)受容体作動薬に共通する欠点は、患者が長期にわたって吐き気や胃腸の不快感を経験することが多い点です。これらの副作用は時間の経過とともに軽減する可能性もありますが、多くの患者は副作用に耐えられず、治療の継続が難しくなっています。このため、製薬会社やバイオテクノロジー企業は、副作用の少なさに重点を置いた新しい抗肥満薬の開発に注力しています。

2つ目の改善点は、患者が経験する体重減少の種類です。現在の抗肥満薬の多くは脂肪と筋肉の両方を減らすため、健康面で他の問題を引き起こす可能性があります。そこで、医薬品開発企業は筋肉を損なわずに体重を減少させる治療法を模索しており、既存の薬を改良することで、それを実現するさまざまな方法を検討しています。

最後に、新しい抗肥満薬の開発は、より個別化された減量治療への道を開く可能性があります。肥満症には、高血圧症、変形性関節症、糖尿病など他の医学的問題、つまり併存疾患を伴うことが多く、将来的には患者の特定の併存疾患に合わせた異なる治療法の組み合わせが提供されるかもしれません。

初期段階の臨床試験を行っているこのようなハイブリッド製品は数十種類あると推定されています。総じて、これらの潜在的な改善によって、患者は体重を恒久的に25%減らせる可能性があります。これは、より大きな商業的機会につながります。副作用が少なく、より効果的な治療法により、減量薬市場は3年以内に750億米ドル、2030年までに1,000億米ドルに達する可能性があります。

さらに、広範囲にわたる経済的影響も大きいと考えられます。現在、先進国では成人の4人に1人が肥満であり、現在の傾向が続けば2035年までに肥満は毎年最大4兆米ドル、つまり世界のGDP(国内総生産)の3%に相当する経済的損失をもたらす可能性があります。



しかし、GLP-1受容体作動薬の可能性は肥満治療以外にも及びます。

研究によると、抗肥満薬を使用している患者は、体重の減少速度が緩やかであったり、減少度が少ない場合でも、脳卒中や心筋梗塞などの心血管系の問題が少なくなることが示されています。抗肥満薬には抗炎症作用があり、特に消化器系のがんなど、特定の種類のがんにも効果があるようです。

さらに、GLP-1受容体作動薬を投与されている患者からの報告にある、もうひとつのプラスの副作用は、食欲の抑制に加えて、欲求や依存行動が減少することです。これらの薬が依存をコントロールする脳の回路に影響を与えると考えられています。

これに加えて、GLP-1受容体作動薬がアルツハイマー病の治療にも有効である可能性が高まっています。オゼンピック(Ozempic、セマグルチド)の製造元であるノボ・ノルディスク(Novo Nordisk)は、GLP-1受容体作動薬が認知機能の低下に与える影響に関する第3相臨床試験(フェーズ3)データを今後発表する予定です。

より副作用が少なく効果が高い薬が登場すれば、肥満治療薬市場は3年以内に750億米ドル、2030年までに1000億米ドルに押し上げられる可能性があります。


GLP-1受容体作動薬が他の重篤な病気を治療する能力があることが明らかになったとしても、心臓病、がん、脳疾患を治療するために現在使用されている多くの医療方法や薬の代わりになるかどうかはまだ不明です。

実際、抗肥満薬が医療業界全体に与える影響を評価するのは難しく、相反する効果が働く可能性があります。

例えば、整形外科の分野では、専門的な整形外科機器の需要が減少しているとの報告があります。人々が体重を減らすと関節への負担が減り、その結果、人工膝関節への置換手術の必要性が少なくなるということです。

一方で、重度の肥満症患者の体重が減ると手術が適応できるようになり、人工膝関節置換手術などの需要が増える可能性もあります。同時に、抗肥満薬が糖尿病、腎疾患、冠動脈疾患の発症を減らし寿命が延びれば、高齢になった時に他の医療が必要になる可能性があります。

保険会社や公的医療提供者は、GLP-1受容体作動薬の高額な費用と、薬の服用を中止すると元の食習慣や体重に戻ってしまうため継続的な薬の投与が必要であるという事実を、薬によるメリットと比較検討しなければなりません。

しかし、より明白なのは、抗肥満薬の普及が食品小売業やレジャー産業にどのように影響を及ぼしているかという点です。これらの影響はゆっくりとではありますが、確実に感じられています。

まず食品についてですが、抗肥満薬は患者の食欲を抑えるため、日常生活への浸透に伴って特定の食品や飲料の売上が減少する可能性が高くなります。先進国の人口の大部分で、平均的な摂取カロリーが減少するでしょう。

私たちの見解では、ソフトドリンク、加工食品、アルコール、菓子類など、不健康と見なされる製品は、世界最大級の食品小売業者にとって主要な収益源であるにもかかわらず、需要の減少に対して脆弱です。確固たるデータが不足しているため、断定的な結論を出すのは時期尚早ですが、不健康と見なされる食品に対する消費者の態度や消費が根本的に変化する可能性を否定できません。

従来の減量用製品やサービスもマイナスの影響を受けるでしょう。一部は抗肥満薬の補完製品として位置づけされるかもしれませんが、GLP-1受容体作動薬はこの業界の企業に深刻な影響を与える可能性があります。

逆に、抗肥満治療が広く普及すれば、食品サプライチェーンで事業を展開する一部の専門企業、特に健康食品メーカーは大きな商業的利益を得られる可能性があります。


GLP-1受容体作動薬がアルツハイマー病の治療に有効であることを示す研究結果も増えています。


ピクテ・アセット・マネジメント、ニュートリション戦略の運用者は、ビタミン剤やサプリメントを製造する企業が大きな恩恵を受けるようになると考えています。

それは、摂取カロリーが20~30%減少しても、基本的な栄養素の必要量は変わらないためです。

つまり、肥満患者が減量して食事量も減れば、富裕層の3人に1人が利用しているサプリメント、ビタミン剤、機能性食品などを日常的に摂取する量が増えると予想され、私たちの投資先である食品メーカーからも、この仮説を裏付けるような報告を受けています。GLP-1受容体作動薬の投与を受けている患者への調査でも、回答者の3分の1以上がプロバイオティクスやビタミン剤などの栄養補助食品を摂取し始めたことがわかっています。

レジャー産業もGLP-1受容体作動薬の普及に伴って成長が加速するかもしれません。健康的なライフスタイルが広まりつつある中で、医療的に肥満と診断される人が減れば、ヘルスケア産業における製品やサービスの需要がさらに高まるでしょう。これには、スポーツウェアやスポーツ栄養、ウェアラブルヘルス、フィットネスデバイスなどの分野が含まれます。


1.Contributing to this survey were the following Pictet Asset Management investment professionals: Flora Liu (client portfolio manager, Thematic Equities), Gillian Diesen (senior client portfolio manager, Thematic Equities), Mayssa Al Midani (senior investment manager, Nutrition), Alex Howson (senior investment manager, Nutrition), May Hammoud (investment manager, Nutrition), Marine Jacquemoud (investment manager, Nutrition), Caroline Reyl (head of premium brands, Thematic Equities), Laurent Belloni (senior investment manager, Premium Brands), Aline Reichenbach (investment manager, Premium Brands), Marien-Baptiste Pouyat (senior investment manager, Human), Dominique Lachal (investment manager, Human), Pamela Saliba (investment manager, Human), Grégoire Biollaz (senior investment manager, Health), Moritz Dullinger (senior investment manager, Health), Tazio Storni (senior investment manager, Health and Biotech), Lydia Haueter (senior investment manager, Biotech), Marco Minonne (senior investment manager, Biotech), Eugénio Martin-Fougeroux (investment manager, Biotech)


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