Article Title
ECB戦略検証で、対称性に合意
梅澤 利文
2021/07/09

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー

概要

欧州中央銀行(ECB)の戦略検証は、新型コロナウイルスで中断したこともあり、開始から1年半ほどしてからの結果公表となりました。もっとも注目されたインフレ率目標は概ね市場予想通りであったためか、市場への影響は小幅でしたが、インフレ率の一時的な上昇を許容する点でハト派(金融緩和を選好)的な内容であったと見られます。



Article Body Text

ECB戦略検証:インフレ率目標は従来に比べ、対称性を許容することが明確となった

欧州中央銀行(ECB)は2021年7月8日、昨年1月から検討してきた金融政策の戦略検証の結果を公表しました。

戦略検証の結果、ECBは、中期的に「対称的な」2%のインフレ率を目指すことで合意したことを明らかにしました(図表1参照)。ECBの従来のインフレ率目標は「中期で2%を下回るがそれに近い水準」でした。しかし会見でECBのラガルド総裁は新たなインフレ率目標では2%は天井でないと明確に述べ、柔軟な政策運営を示唆しました。

どこに注目すべきか:ECB、戦略検証、対称性、PEPP、気候問題

ECBの戦略検証は、新型コロナウイルスで中断したこともあり、開始から1年半ほどしてからの結果公表となりました。もっとも注目されたインフレ率目標は概ね市場予想通りであったためか、市場への影響は小幅でしたが、インフレ率の一時的な上昇を許容する点でハト派(金融緩和を選好)的な内容であったと見られます。

ECBの戦略検証でもっとも注目されたインフレ率目標は対称的という言葉が強調されました。従来の表現は2%を下回るがそれに近い水準と理解されており、インフレ率が2%を超えなければいい、さらにはインフレ率が低くても問題はないと曲解されかねない表現でした。

結果として、従来のインフレ率目標の認識にもとづく政策運営では、インフレ率が2%に到達する前から引締めに転じることが想定されました。早すぎる引き締めで景気を必要以上に早く冷やしてしまうリスクが低下することが期待されます。また、足元ではインフレ率が米国などのように(恐らく一時的に)2%を超えて上昇する可能性もありますが(図表2参照)、たとえ2%を超えても、ある程度柔軟な金融政策の運営が確保されたこととなります。

ただ、会見でラガルド総裁はインフレ率が2%を超える許容範囲や許容期間について具体的な基準を問われましたが、明言は回避しています。それはそうだと思います。

ラガルド総裁は主要な金融政策手段は政策金利であると述べました。主要政策金利とマイナス金利となっている預金ファシリティなどを示唆しています。もっとも、現在政策金利は下限に張り付いた格好であるため、資産購入などを使用すると説明しています(図表1参照)。また政策金利が動かせない中、更なる金融緩和が必要な場合の対応として足元ではパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の拡大と述べていました。ただ、PEPPの期限は22年3月です。その後については今後の展開次第と思われます。

なお、物価目標の測定基準として欧州連合(EU)基準の消費者物価指数(HICP、図表2参照)を継続して使用する一方で、持ち家コスト(自宅保有を賃料コストに換算)を将来的(26年予定)に含む計画であると発表しました。市場の試算を見ると、持ち家コストを含むことで小幅インフレ率が押し上げられる見込みですが、ECBからの追加的な情報の確認が必要です。

気候変動への対応については、気候ストレステストなどECBが既公表していた内容です。なお詳細は今後を待つことになりますが、社債購入政策(CSPP)などで気候変動の要件が考慮される見込みです。またラガルド総裁は、カーボンプライシングの計量モデルなどに人員などリソースを配分すると述べるなど引き続き、気候問題に積極的な姿勢を示していたことは印象的で、金融政策と気候問題の関連は密接となりそうです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


円安に見る、日銀ゼロ金利政策解除は単に出発点

中銀ウィーク、FRB以外に見られた注目点とは

3月のFOMC、年内3回利下げ見通しを何とか維持

ECB、政策金利の運営枠組み見直しを発表

2月の米CPI、インフレ再加速の証拠は乏しいが

2月の米雇用統計は波乱材料とならず