Article Title
中国恒大集団をめぐる市場の反応
梅澤 利文
2021/09/22

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー

概要

中国政府は格差拡大の解消など国内問題への対応として不動産市場への規制を強めてきました。そのような中、中国不動産大手の中国恒大集団の経営危機が世界の金融・株式市場を揺るがしています。今後の展開を占う上で中国当局の姿勢が重要と見られますが、当局の方針は今のところ不明確です。そこで市場の動向から今後のポイントを探ります。



Article Body Text

中国恒大集団:中国の大手不動産開発業者の債務返済懸念を受け株式市場が動揺

中国の不動産大手、中国恒大集団の債務問題を受けて2021年9月21日の香港株式市場は 中国不動産セクターの健全性を巡る懸念が波及し、 香港株の指標であるハンセン指数はマイナス3.3%と大幅に下落しました。これに呼応する形で欧米日の株式市場も下落しました。

なお、中国の信用力の尺度(中国国債保証料率)であるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)も急上昇し信用力の悪化が示唆されました(図表1参照)。

どこに注目すべきか:中国恒大集団、債務問題、格下げ、利払い

中国政府は格差拡大の解消など国内問題への対応として不動産市場への規制を強めてきました。そのような中、中国不動産大手の中国恒大集団の経営危機が世界の金融・株式市場を揺るがしています。今後の展開を占う上で中国当局の姿勢が重要と見られますが、当局の方針は今のところ不明確です。そこで市場の動向から今後のポイントを探ります。

まず、中国恒大集団の負債規模を確認すると、6月末時点の負債総額は1兆9665億元(約33兆4000億円)と見られます。内訳は半分程度が買掛金、残りの半分程度が社債などを含めた借入金、残りは顧客への物件の引渡し義務などの契約債務や、その他債務と見られます。

中国銀行保険監督管理委員会によれば、足元で中国の商業銀行の貸倒引当金残高は5兆4000億元あり、一丸となれば、対応できない規模ではないようにも映ります。中国のCDSが急上昇(信用力悪化)したとはいえ、新型コロナウイルスや米中貿易戦争などの時期の水準を下回っています。しかし、中国恒大集団に万一、簿外債務があった場合や、市場が次はどこが危ないと連鎖的な反応をした場合は別の展開も想定されます。また今後の不動産売却も想定されます。CDSは今後の動向を必ずしも予想せず、現段階での目安程度と解釈すべきでしょう。

次に中国恒大集団の社債について振り返ります。中国恒大集団に関連する社債で利払いが近いものは、主に外国人を対象とするドル建て債(図表2参照)が13本で約195億ドル、人民元建て債が3本と見られます。

ドル建て債について、利払い期日が特に近い2銘柄(22年3月償還、利率8.25%と24年3月償還、利率9.5%)の価格動向を見ると昨年9月ごろから24年債は価格が軟調です。中国当局が不動産開発業者の負債に上限を設定した「三条紅線(3本のレッドライン)」の時期にあたります。

中国恒大集団の社債価格は今年6月頃から下落しています。これに連動する格好で格付け会社は中国恒大集団を格下げしています。足元の格付けは、ある種の債務不履行(デフォルト)を織り込んだ水準です。社債の市場価格も同様の解釈と思われます。そこで格下げの理由を見ると、共通するのは中国恒大集団の返済能力が足元著しく悪化したことです。中国恒大集団の社債価格から想定される利回りは数百%で、資本市場からの資金調達は事実上不可能です。このような場合、資産売却、または新たな借入先の確保が求められますが、資産売却は進まず、一部借入れは不払いを起こしたと報道されています。そのため中国当局の何らかの関与が今後の展開を占う上で重要と見られます。

目下の注目は社債の利払いです。23日にドル建てと人民元建て債各1本ずつ利払い日を迎えます。中国恒大集団が利子を支払うか、それとも別の展開となるのかに注目しています。なお人民元建て債の利払いは不確実ながら返済意思が表明されましたが、ドル建て債は待ちの状態です。

 

 


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


東京都区部CPIの注意点と注目点

円安に見る、日銀ゼロ金利政策解除は単に出発点

中銀ウィーク、FRB以外に見られた注目点とは

3月のFOMC、年内3回利下げ見通しを何とか維持

ECB、政策金利の運営枠組み見直しを発表

2月の米CPI、インフレ再加速の証拠は乏しいが