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インド中銀の金融政策正常化へのかすかな兆し
梅澤 利文
2021/10/12

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概要

インドにおける新型コロナウイルスの感染動向は落ち着きを見せ始めています。インド中銀では、正常化に向けたプロセスの準備が徐々に整いつつあるようです。インドの場合、成長重視か、それともインフレ抑制かが問われます。これまでのところ成長重視の姿勢と見られますが、インフレ率上昇に対する備えにシフトする兆しも見せ始めた印象です。



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インド準備銀行:市場予想通り政策金利据置くも、市場予想に反し債券購入停止

インド準備銀行(中央銀行)は2021年10月6~8日に開催した金融政策決定会合で、政策金利を年4.00%で市場の予想通りに据え置くことを決定しました。据え置きは8会合連続となります。

なお、インド中銀はインドの国債購入プログラム (G-SAP)を市場予想の段階的な縮小でなく、一挙に停止しました(図表1参照)。一方で、変動金利リバース・レポ(VRRR)入札の規模拡大と期間の長期化を行うとし流動性供給の正常化のシグナルを明確に示しました。

どこに注目すべきか:新型コロナ、G-SAP、VRRR、インフレ目標

インドにおける新型コロナウイルスの感染動向は落ち着きを見せ始めています。インド中銀では、正常化に向けたプロセスの準備が徐々に整いつつあるようです。インドの場合、成長重視か、それともインフレ抑制かが問われます。これまでのところ成長重視の姿勢と見られますが、インフレ率上昇に対する備えにシフトする兆しも見せ始めた印象です。

まず、インドの新型コロナの感染動向を簡単に振り返ると、昨年後半に第1波に見舞われました。この時は厳格な都市封鎖(ロックダウン)で対応しました。

第2波は今年5月前後で、5月のピークには1日あたりの新規感染者数が約40万人に達し、医療崩壊に直面する事態となりました。インドの足元の新規感染者数は1日当り概ね2万人を下回る水準で推移しています。決して少ないとはいえませんが、新型コロナ対応から景気回復に政策の重心をシフトしている段階と見られます。

インド経済の見通しを、インド中銀の声明文で確認すると21/22年度(21年4月~22年3月)の実質GDP成長率見通しは前年比9.5%増に据え置き、22/23年度を7.8%増としました。ワクチン接種の拡大や、それに伴う経済活動の再開、堅調な国内需要などを理由に比較的強気の見通しとなっています。

次にインフレ率については21/22年度の消費者物価指数(CPI)の見通しを前年比5.3%と従来の5.7%から下方修正しました(図表2参照)。食料品インフレ率の低下を主な理由と説明しています。来年度は、4.5%~5.2%のレンジを予想しています。インド中銀のインフレ目標である4%±2%の中心値を上回る水準の推移が想定されています。

インド中銀がインフレ率をあわてて引き下げる様子は声明に強く打ち出されませんでした。また、最近行われたインド中銀のマイケル・パトラ副総裁の講演でも高水準からの緩やかなインフレ率の低下を容認する内容が述べられています。

インド中銀は今回の声明でインフ見通しを引き下げるなど金融緩和を容認する姿勢で基本的には景気下支えを支援する構えで、政策金利を据置きました。しかし一方で、量的金融緩和を、市場が想定していた縮小ではなく、停止としました。これを受け、インド国債利回りは上昇しています。

また、ややテクニカルな話ですが、少し先のことながら変動金利リバースレポレートの引き上げを通じた流動性吸収の可能性を述べています。つまりインド中銀は今夏、金融緩和姿勢を維持する一方で、債券購入停止、レポ取引、政策金利の引き上げという金融政策正常化への流れを示唆したようにも思われます。エネルギー価格上昇などを受け、インドのようなエネルギー輸入国では、インフレ懸念が高まる可能性を過小評価できないと見られます。インドはアジアの主な中では、韓国に次いで利上げを行う国の候補のように思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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