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中国4月の主要経済指標の教訓
梅澤 利文
2022/05/16

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概要

中国の4月の主要経済指標は軒並み市場予想を下回り、中国の経済活動は都市封鎖(ロックダウン)などの影響により深刻であることが浮き彫りとなりました。中国国家統計局は新型コロナウイルス感染拡大が抑制により景気は持ち直すとの見解を表明しています。ロックダウン解除の声も聞かれ始めてはいますが、時間がかかっているなと思う人は少なくないはずです。



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中国4月主要経済統計:市場予想を下回る指標が相次ぎ、景気減速が鮮明に

中国国家統計局が2022年5月16日に4月の主要経済指標を発表し、小売売上高は前年同月比マイナス11.1%の減少と、市場予想であったマイナス6.6%減少や、3月のマイナス3.5%減少を大幅に下回りました(図表1参照)。生産活動を反映する鉱工業生産も前年同月比マイナス2.9%の減少と、市場予想、前月を下回りました(図表2参照)。

固定資産投資については年初来同期比6.8%増と、前月の9.3%増から減速するも、市場予想の7.0%増を小幅に下回るにとどまりました。

どこに注目すべきか:4月主要経済指標、失業率、ロックダウン

中国の4月の主要経済指標は軒並み市場予想を下回り、景気減速が明確となりました。減速の背景は上海市の都市封鎖(ロックダウン)など新型コロナウイルスの封じ込めを狙う「ゼロコロナ政策」で経済活動が抑制されたためと見られます。4月の主要経済指標の主なポイントは次の通りです。

ロックダウンで多くの市民の外出が禁じられたことなどを受け小売売上高は大幅に鈍化しました。調査失業率は武漢などで新型コロナが猛威を振るった20年2月以来の水準に悪化しています。特に若年層の失業率は記録的な水準で高止まりしています。失業率上昇による個人消費への影響が懸念されます。

生産活動もロックダウンの影響で活動が鈍り、鉱工業生産は市場予想を大幅に下回りました。生産活動を品目別に見ると、部品調達の遅れなどから自動車生産が前年度比で4割程度減少しています。ただ、電気自動車(EV)の生産はプラスを確保するなど品目により生産活動に若干のばらつきが見られます。それでも生産活動全体のバロメーターとなる電力生産は前年比マイナス4.3%と大幅に減少しており、生産活動の鈍化は明らかと思われます。

投資活動は固定資産投資全体としては市場平均を小幅下回る水準にとどまりました。ただし固定資産投資を前月比ベースでみると4月は前月からマイナスと減速しており、これは20年2月以来となります。また、中国経済の成長のけん引役となることが期待されているインフラ投資は前倒しなどにもかかわらず前月からペースダウンしています。同様に製造業投資も1-3月期からペースダウンしました。さらに不動産投資は1-4月期がマイナス2.7%と、3月までのプラスから大幅に低下しました。なお、同時に発表された住宅販売は年初来同期比で3割を超えるマイナスとなっています。

中国当局も景気テコ入れ策を導入しています。例えば、足元では中国人民銀行(中央銀行)などが1件目の住宅購入者を対象に住宅ローン金利(下限)を0.2%引き下げました。なお現在(引き下げ前)の下限は4.6%が目安で、新たな下限は4.4%が見込まれます。ただ、人民銀は16日に中期貸出制度(MLF)の1年物金利を据え置き、利下げに慎重な姿勢も見せています。人民元安が続く中、将来的なインフレ懸念や資本流出に対する人民銀の配慮が背景と見られます。金融緩和策として、預金準備率の引き下げも市場では予想されていますが、仮に引き下げられたとしても、引き下げ幅は前回同様、0.25%に留まることを見込む声があるようです。


インフラ投資など財政政策にはある程度継続が期待されます。しかし、恐らく、最も有効な経済対策はゼロコロナ政策の見直しと思われます。中国の新型コロナ新規感染者数は減少しており、幸い(?)にもゼロコロナ政策解除への機運は高まっていますが、対応が遅いと感じる人は多いと思います。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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