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ブラジル中銀の利下げ見通しと今後の注意点
梅澤 利文
2024/02/02

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概要

ブラジル中銀は23年8月から利下げを続けています。24年1月の会合でも声明文で同程度の利下げを次回以降も続ける可能性を示唆しています。ブラジルのインフレ率が鈍化したことや、海外中央銀行の引き締め方針に変化の兆しが見えつつあることなどが利下げを後押しする格好となっています。ただ、今後については気になる点もあり、利下げのペースダウンなどが将来的には必要となるかもしれません。




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ブラジル中銀、インフレ予想の安定化などを受け、5会合連続で利下げ

ブラジル中央銀行は24年1月31日に金融政策決定会合の結果を発表し、市場予想通り政策金利を0.5%引き下げて11.25%にすることを決定しました(図表1参照)。利下げは9人の委員全員一致による決定でした。3年ぶりに利下げが始まった23年8月会合以降、利下げ幅は5会合連続で0.5%となっています。

ブラジル中銀が声明文に示したインフレ率の予想は24年が3.5%、25年が3.2%と、前回(23年12月13日)会合と同じ予想を示しました。昨年8月に利下げを開始した時は同中銀のインフレ率予想は24年が3.4%、25年を3.0%としていたことから、インフレ見通しは落ち着いています。

ブラジル中銀はインフレ鈍化を見極めながら利下げ継続の公算

ブラジル中銀は声明文で「委員は全会一致で、今後の数回の会合で同じ規模でのさらなる引き下げを予想している」と説明しており、当面同程度の利下げが続くものと思われます。ブラジル中銀のネト総裁は23年12月後半にインタビューで自身の任期終了(24年12月)までに政策金利をできるだけ低くする意向を示しました。ブラジルの政策金利は年内どの程度まで低下が見込まれているのか、そして死角はないのかについて述べます。

まず、年末の政策金利の水準はブラジル中銀が集計する市場予想を参考にすると9%が見込まれています。年内の会合があと7回で、現在の政策金利が11.25%であることから、単純に(毎回利下げと)仮定するなら、0.5%の利下げを2回、0.25%の利下げを5回行う計算です。今後の金融政策は、インフレ率や海外の金利動向などに左右されるでしょうが、利下げペースの鈍化も見込まれます。

同市場予想によると、24年末のインフレ率予想として、3.8%台が見込まれています。ブラジルの消費者物価指数(IPCA)は23年12月が前年同月比で4.62%上昇であったことから、市場もブラジル中銀のようにインフレ率の低下を見込んでいます(図表2参照)。ブラジルのインフレ率は数年前に世界的なインフレ圧力と、レアル安、100年ぶりと形容される水不足で主力の水力発電からの電力供給不足がネックとなり物価が押し上げられました。

しかし、水不足は足元では深刻な問題となっておらず、また世界的なインフレ鈍化もブラジルの物価を押し下げる要因となっています。

ブラジルのインフレ見通しは良好だが、一部に懸念要因も残されている

ただし、利下げを継続するにはインフレ鈍化が今後も続くこと、そしてそのためには通貨レアルの安定が必須と思われます。

まず、ブラジルのインフレ率の今後を占ううえで気になる点として、堅調な労働市場が物価の下落ペースを鈍らせることが挙げられます。ブラジルの失業率は23年10-12月期が7.4%と、ピークから急低下しています。そのため、労働市場の活況が賃金に反映されやすいサービスセクターでは、足元でサービス価格が上昇する兆しも見せ始めているだけに、今後の動向に注意が必要です。

次にレアルを見ると、利下げが潜在的なレアル安要因である点に注意が必要です。政策金利が現局面のピーク13.75%をつけたのに伴い、高金利通貨としてレアル高傾向となりました。しかし、利下げに転じてから上昇傾向に陰りも見られます。レアルは依然高金利通貨で、日本などを除き先進国が利下げに転じる可能性がある中、高金利通貨レアルの優位性が急激に失われるとは思われませんが、利下げペースに配慮は必要でしょう。

最後に政治動向です。23年10月ごろレアル安が進行したのはルラ左派政権誕生が懸念されてのことです。しかし、ルラ政権は各年の基礎的財政収支(プライマリーバランス)に応じて歳出を抑制する財政均衡法などで財政改革を進めています。また23年12月にはブラジル議会下院で税制改革を目的とした憲法改正法案が承認されました。これを受けて、これまで他の格付け会社に比べブラジルに対し厳しい評価をしていた格付会社S&Pグローバル・レーティングは、ブラジルをBBに格上げしました。このような動きが続くようであればレアルの押し上げ要因とみられます。

しかしながら、1月末に発表されたブラジル政府の23年のプライマリーバランス(PB)は約2300億レアルの赤字で対GDP(国内総生産)比率は2.1%程度の赤字でした。22年は同比率が0.5%程度の黒字であったことから、財政状況は苦しくなってきているようです。このようなことが制約となり、これまでの財政改革の勢いが失われることはないのか注視する必要があると思われます。

ブラジル中銀のインフレ率が低下するとの見通しは、レアルが現状水準で推移することを前提としています。レアルの動きは足元では安定していますが、懸念要因はゼロではなく、今後も慎重に見守る必要がありそうです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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