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中銀ウィーク、FRB以外に見られた注目点とは
梅澤 利文
2024/03/25

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概要

米国の金融政策は影響力が大きいことから、世界の多くの中央銀行はFOMCに合わせて金融政策決定会合を設定する傾向があります。FRBのアクションを待って金融政策も変更する傾向が見られます。しかし、今回米国が利下げを決定する前にスイスが利下げを決定するなど、国による独自色も見られました。その背景などを振り返ります。




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「中銀ウィーク」における各中央銀行の決定は概ね市場予想通り

米連邦準備制度理事会(FRB)は24年3月19-20日に米連邦公開市場委員会(FOMC)を開催しました。FOMCが開催された先週は、主要な中央銀行が金融政策を決める会合が続くため「中銀ウィーク」と呼ばれています(図表1参照)。

中銀ウィークはFOMC前後となることが多いのも特徴です。図表1は先週開催された主な国の金融政策決定会合(FOMCを除く)を示しています。大半の国では、図表1の「予想」に示されている事前の市場予想通りの政策が決定されました。しかしトルコとスイスは市場予想の据え置きに反しトルコは利上げ、スイスは利下げを決定しました。

日本、スイス、トルコは注目すべき決定を行った

今回の中銀ウィークで注目(FRBを除く)を集めた中央銀行の1つは、最後までマイナス金利を維持していた日銀とみられます。マイナス金利解除の時期を巡り、市場では3月か4月の会合かで直前まで見方は分かれていました。しかし、24年の春闘で連合が第1回集計で大幅な賃上げ率となることが確認されたため、3月マイナス金利解除予想に急速にシフトしたとみられます(図表2参照)。

日銀は今回の会合で、マイナス金利の解除以外にも、イールドカーブ・コントロール(YCC)撤廃や、上場投資信託(ETF)などの新規購入停止を決定したことは報道の通りです。非伝統的と呼ばれる金融政策を一掃し、短期金利(オーバーナイト無担保コール)中心の金融政策運営に回帰するという点においても、今回の日銀の決定は歴史的な意義があると思われます。

次に、市場予想と異なる決定(図表1、水色で表示)をした国としてスイスとトルコを取り上げます。中銀ウィークの前、先進国と新興国の多くの中央銀行はFRBの利下げを待って、政策金利の引き下げを開始するだろうとの認識が一般的でした(日銀は除く)。そうした中、スイスは市場予想の据え置きに反し利下げを決定しました。インフレ鈍化が決定の背景と見られます。会合と同日に発表されたスイス中銀の物価見通しで、従来のインフレ予想が下方修正される内容であったからです。もっとも、市場では利下げ後にスイスフラン安傾向となっており、スイス中銀には通貨安の許容範囲が試される展開になると筆者は想定しています。

トルコは市場予想の据え置きに反し、政策金利を引き上げました。政策金利を前々回(24年1月)の会合で45%にまで引き上げたもののリラ安進行に歯止めが見られなかったことから、追加利上げを実施しました。市場では、政策金利が既に45%と高水準であること、2月に就任したカラハン新総裁の初会合であることから様子見の据え置きを予想していました。しかし、カラハン新総裁の利上げを受け、為替市場にようやくトルコリラ高の兆しが見られました。ただし、今後の展開は未知数です。

市場予想通りの決定をした中央銀行の発表内容にも注目点が見られる

図表1に掲載した多くの中央銀行は今回の会合で市場予想通りの決定を行いましたが、発表内容の中に注目すべき点もありました。

英国の中央銀行のイングランド銀行は今回の会合で据え置きを決定しました。前回会合における投票結果は、据え置きが6票、利上げが2票、利下げが1票でした。しかし今回の会合では据え置きが8票、利下げが1票と、利上げ支持がいなくなりました。イングランド銀行のベイリー総裁はメディアとのインタビューで市場が織り込む年内利下げ開始時期や利下げ回数のシナリオを肯定したとも受け取れるコメントをしています。これまで市場ではイングランド銀行が6月以前に利下げを開始する可能性は低いとみていましたが、今では過半が6月からの利下げ開始を見込んでいます。筆者は6月以前の利下げ開始を予想しています。

メキシコ中銀は周到に準備を重ねて、今会合での利下げ開始を決定しました。メキシコは、2月のインフレ率が前年同月比で4.4%上昇と落ち着きつつあるのに比べ、政策金利は11.25%と高水準の状態を過去1年ほど維持してきました。同じ時期、米国が利上げから据え置きへとした中、通貨ペソ安懸念を背景に、メキシコ中銀は政策金利を据え置いてきました。ただし、メキシコ中銀は昨年後半から利下げの可能性を示唆し、前回2月の会合では利下げが近いとのサインを明確にしていたことから、今回利下げを開始したといっても、為替市場への影響は限定的でした。また、利下げ幅も小幅で、利下げ後の政策金利は十分に高く、高金利通貨であることに変化はないと思われます。

この点、インドネシアや図表1にはありませんが南アフリカなど多くの新興国は基本的にはFRBの次の利下げを辛抱強く待つ姿勢と思われます。3月のFOMC後の会見でFRBのパウエル議長は年内に利下げ開始の可能性があることを比較的明確に示唆しましたが、利下げ開始時期と利下げ幅については不確実性が残されています。

インドネシアはインフレ率がこの半年ほど2%台で安定的に推移しています。利下げを開始しても不思議ではない水準ですが、通貨安抑制を重視して政策金利を据え置いているものと見ています新興国の中には似たような経済環境の国も多く、仮にFRBが利下げ開始となれば追随する国は多く出てくるように思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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