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- 日銀、国債買入れの減額はバランスをとって決めた
日銀は6月の金融政策決定会合で政策金利を0.5%に据え置くことを決定し、長期国債の買入れ減額ペースを四半期ごとに2000億円とする方針を発表した。この決定は市場予想通りであり、市場への影響は限定的だった。減額ペースは金利上昇を回避しつつ、正常化とバランスを取ったものと説明した。日銀は前回会合同様、インフレ率が景気の下振れに伴い鈍化した後、上昇する展開を見込んでいる。
日銀、6月会合で市場予想通りの政策金利据え置きと国債買入れ減額
日銀は6月16日~17日に開催していた金融政策決定会合で、政策金利の誘導水準を0.5%程度に据え置くことを全員一致で決めた。3会合連続で据え置いた。市場予想通りの決定だった。
長期国債買入れについて、26年1~3月までは従来の長期国債の買入れ予定額を据え置き、四半期毎に4000億円程度の減額とした(図表1参照)。今回発表された予定では、26年4~6月以降は四半期毎に2000億円程度ずつ減額し、27年1~3月に2兆円程度にとするとしている。この決定は賛成8反対1だった。市場でも過半は26年4~6月以降の減額を2000億円と見込んでいたが、減額4000億円を見込む声も一部にあった。
国債保有、長期国債市場の利回り上昇に配慮するも、正常化路線は継続
日銀が決定した政策金利の据え置きと、長期国債の買入れの減額幅は市場予想通りであった。また植田総裁の会見を受けてもドル円や金利の動きは小幅で、ほぼ無風であった。超長期国債の利回りは会合翌日に小幅ながら上昇した。
まず、記者会見で質問が多かった長期国債買入れ減額を振り返る。日銀は異次元緩和で肥大したバランスシート上の保有国債を減らすため(図表2参照)、24年8月から月間の国債の買い入れ額を減らす量的引き締め(QT)を開始した。減額開始前の24年7月の買い入れ額は図表1にあるように月約5.7兆円だった。これは日銀の保有国債の月次償還額と同程度であったためバランスシートの規模を維持する購入額だったが、QTを発表後の24年8月から月間買入れ額を削減した。
日銀は予見可能性を重視して事前に削減ペースを通知してきた。今回の発表では26年3月までの前回の予定が維持されたが、26年4月以降は四半期で2000億円ずつの減額ペースに緩められた。図表1で買い入れ額が2.9兆円から2.7兆円と2000憶円の減額となった個所以降が該当する。
日銀によると今回のペースでQTを行うと、27年3月にはQT開始前に比べ16~17%ほど保有額が減少するとしている。これによると、27年3月時点の国債保有額は500兆円を下回る見込みだ。
日銀が国債市場の機能を正常化させるためにも国債保有額の縮小を進めることに異論はない。問題はペースだろう。植田総裁は国債購入減額のペースを2000億円にした背景について4~5月の動向(金利急上昇)も要因であることをにおわせた。また、減額ペースが速すぎて金利の変動性が上昇し経済にマイナスとなることを回避したい考えも示した。要は正常化の必要性と市場の安定性をバランスさせたということが背景なのだろう。
なお、国債購入の減額幅縮小に反対票を投じたのは田村委員で、4000憶円のペースでQTを続けることを主張した。報道等で2000億円の減額が市場参加者に十分浸透していたことから、国債市場への悪影響を考えれば4000億は選択しにくい。しかし、筆者は田村委員を支持したい面もある。超長期国債の利回り上昇は需給の悪化が背景であるとするならば、国債発行の調整での対応が筋でもあるからだ。報道によると、財務省は超長期債(満期までの期間が10年超)について、国債の発行計画を見直し、超長期債の発行額を減らす一方で、短い年限の発行額を増やす方向と伝えられている。20日に開催する金融機関を集めた会合で投資家の意見を踏まえて具体的な見直しを決める方針のようだ。補正予算以外で、年度途中に国債発行計画が見直されるのは異例で市場は国債発行見直しの動向に注目している。
日銀の物価見通しは前回と変わらず、利上げ姿勢維持ながら慎重に判断
次に日銀の景気判断を検討する。4月の消費者物価指数(CPI、除く生鮮食品)は前年同月比で3.5%上昇と3年以上2%を下回ったことがない。植田総裁は、食料品価格上昇の影響が非常に強く響いているが、インフレ率は年後半に景気の下振れとともに鈍化するが、その後持ち直す(上昇する)展開を想定していると説明した。前回会合と基本的に同じようだ。なお、物価は上下双方向のリスクがあるとしており、バランスをとっている。
なお、計測方法はわからないが、基調的物価上昇率についてはまだやや2%を下回っており、加速感をもって上がっている状況ではないとの説明も前回と基本的に同じだ。ただし、基調的物価上昇率の目安のコアCPIは上昇傾向である。また基調的なインフレ率を補足する指標として日銀が公表するデータも上昇傾向なのは気になるところだ。
もっとも、植田総裁は景気について、調査ベースのソフトデータは世界的に悪いが、ハードデータはしっかりしているが今後は悪化する懸念もあり、そしてそれが物価にどう影響するか見守りたいとも述べている。今後の(ハード)データの動向と物価への影響が利上げの有無を大きく左右しそうだ。
不確実性を前に、日銀は利上げを急がない姿勢なのだろう。利上げは年内あるとしたら1回にとどまり、年内据え置きを維持する可能性もありそうだ。
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