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- ベージュブックとFOMC参加者の主な発言の勘所
7月16日に発表されたベージュブックによると、米経済活動は5月下旬以降「小幅に拡大」したと報告された。労働市場については地区ごとに温度差があった。なお、移民政策の影響で外国人労働者の確保が困難と述べられている。物価は12地区すべてで関税の影響が指摘された。FOMC参加者のコメントを見ると、7月会合での利下げ支持も一部にあったが、大半は政策金利の据え置きを支持しているようだ。
7月FOMCの討議資料となるベージュブックによると米経済は小幅に拡大
米連邦準備制度理事会(FRB)が7月16日に発表した地区連銀経済報告(ベージュブック)によると5月下旬以降の米経済活動は「小幅に拡大した」と総括された。経済活動が「若干鈍化」とした前回報告から改善したが、不確実性は依然として高く、このため企業は慎重姿勢と指摘されている。今回のベージュブックはボストン連銀が7月7日までに収集した情報に基づいてまとめた。
物価については、12連銀地区全てで物価の上昇が報告された。労働市場については、地区により見方は分かれるが、新規採用への慎重姿勢、複数の地区で移民政策により外国生まれの労働者の確保が困難なことが報告された(図表1参照)。
労働市場や物価動向に関税などトランプ政権の政策の影響が見られる
次回の米連邦公開市場委員会(FOMC)は7月29、30両日に開催が予定されている。市場予想によると据え置きが確実視されている。ベージュブックはFOMCでの議論のたたき台となるが、物価、労働市場に不確実性が残ると指摘している。
ベージュブックは労働市場について、地区により雇用市場には温度差があると指摘している。ただし労働市場の全般的な傾向として、不確実性などを背景に新規採用に慎重姿勢と述べている。
なお、複数の地区連銀はスキルのミスマッチと、移民政策の変更を受け外国人労働者の確保が困難である点を指摘している。図表1には外国生まれの人の就業者数減少が示唆されているが、実感としても、移民が多く働く農業や建設業などで人員確保の難しさがあるようだ。一部の地区では省力化投資により人手不足に対応するといった言及もあった。また、既存の雇用は維持する方針である中、賃金の上昇圧力は緩やかな上昇傾向にとどまっているようだ。
次に、物価動向についてベージュブックでは12地区連銀すべてが関税の影響について言及し、製造業の原材料価格などに関税を背景とした価格上昇圧力が見られたと指摘している。
しかし、価格転嫁は一部にとどめた企業が多いと述べられている。原材料などの価格上昇分は利益マージンの縮小で対応し、シェア重視の戦略を選択したとも述べられている。
しかし、このような対応は一時的であるとも考えられ、夏の終わりには価格が急上昇する可能性もあると指摘している。
FOMC参加者は大半が次回会合での据置き支持だがウォラー理事は例外
7月のFOMCを前にした19日から、金融政策への言及を控える「ブラックアウト期間」となったが、期間開始前のFOMC参加者のコメントを見ても、大半が様子見を支持しているようだ(図表2参照)。そのため7月のFOMCでは据え置きの可能性が高そうだ。これを支持する発言としては関税政策による物価への影響を見極めるため政策金利を現行水準で据え置くのは「極めて適切」と述べるニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁が挙げられる。
サンフランシスコ連銀のデーリー総裁や、クーグラー理事、図表2の発言内容には記載していないが、パウエル議長らも同様の見解だ。ベージュブックは物価について夏の終わりに関税の影響で上昇する可能性を指摘している。当面は様子見を続けたいという大半のFOMC参加者のコメントとも概ね整合的だ。トランプ関税(相互関税)についても多くの国では8月1日頃をめどに関税税率などを発表する予定であり、そこまでは「待つ」というのは合理的な判断だろう。
しかし、待ちすぎに対する懸念の声が強まっていることも見逃せない。ダラス連銀のローガン総裁は過去にはインフレ抑制を重視する発言をしたこともあるが、最近では労働市場、物価動向次第では「かなり早期の利下げ」の必要性を示唆している。
サンフランシスコ連銀のデーリー総裁も「永遠に待つことはできない」と指摘している。9月の利下げ支持と読める発言だろう。
このような中、7月のFOMCでの利下げを支持しているのがウォラー理事だ。据え置きに対し反対票を投じる可能性があることを示唆した。17日の講演では主に3点を利下げ支持の理由としている。
1点目は関税の物価への影響は税率引き上げ時の1回限りとみているためだ。関税引き上げでも期待インフレ率が落ち着いているなら利下げを躊躇すべきでないと説明している。
2点目は米国のGDP成長率が年前半は1%程度、年後半も回復が鈍いなか、政策金利を引き締め水準とすべきではないとも述べている。
3点目は労働市場が見かけほど強くない点だ。6月の雇用統計の非農業部門就業者数は前月比で14.7万人増と堅調な結果だが、民間部門の伸びは弱かったとウォラー理事は指摘している。
ウォラー理事の指摘は重要なポイントではあるが、他のFOMC参加者の発言(図表2以外の発言も含め)を見る限り、同調者が増えるかは微妙だ。米国経済の一部に軟調な指標は確かに見られるが、世界各国の通商交渉の結果が出そろうと思われる8月を前に利下げをする必要は乏しいと考えられるからだ。利下げ再開があるとしたら9月以降ではないかと筆者は見ている。
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