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- 日米通商交渉、7転び8起きで急転直下の合意
トランプ米大統領は、日本からの輸入品に一律15%の関税を課すことで合意したと発表した。自動車に対する関税も引き下げられ、日本経済界や市場はこれを好感した。一方、石破首相の退陣観測が報道されるなど政治が市場に影響を与えている。先の関税合意の詳細には未確定なところもあるが、不確実性の低下は日銀の利上げ判断に影響を与える可能性がある。今後の動向に注意が必要だ。
日米通商交渉、参議院選挙後に急転直下の合意
トランプ米大統領は日本時間7月23日、日本からの輸入品に一律で課す関税率を15%とすることで合意したと自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」で明らかにした。米国は自動車や鉄鋼・アルミニウムなど個別分野を除き、8月1日からは日本からのその他の輸入品に対して25%の税率を課す方針だった。報道によると、自動車への追加関税は25%を半減させ、もともとの2.5%に12.5%を上乗せして15%にすると伝えられている。
参議院選挙で与党が敗北し、関税交渉が停滞するとの懸念もある中での急転直下の合意を受け、市場では円が上昇し、株式市場は税率15%という結果を評価して急上昇した(図表1参照)。
合意した関税率は決して低いわけではないが、一定の成果と見られる
米国との通商交渉を担当した赤沢経済財政・再生相は過去7回訪米し、今回の8回目の交渉で合意に達した。石破首相が指摘するように、対米貿易黒字国の中では、これまでのところ関税率は最も低い15%で合意したと発表された(図表2参照)。また、自動車についても15%で合意できたことは日本経済にとって朗報であろう。
例えば、22日に合意したフィリピンは4月に米国が示した関税率は17%だったが、7月に20%と通告された。その後、交渉の結果、インドネシア同様の19%で合意したと米国が発表した。日本の場合、7月月初に関税率が25%と通告されたが、自動車関税も含め15%に引き下げられたことから、経済界などからも歓迎する声が上がっている。
ただし、15%とはいえ、第2期トランプ政権前の関税率に比べれば、高関税であることに変わりはない。あくまで、相対的な低さではあるがそれでも、通商交渉の成果としては想定以上だろう。
7度目の通商交渉を終えても赤沢経済再生担当大臣は「五里霧中」と漏らすなど、先が見えないと思われていた。その矢先に、懸案であった自動車の関税率まで引き下げられた今回の結果に対し株式市場は素直に反応した。特に自動車セクターが大幅に上昇し、市場の上げを主導した。
為替市場では、日米通商交渉の合意の発表直後は146円台前半まで円高・ドル安が進行した。しかし、石破首相が月内にも退陣を表明する意向との報道を受け147円台に戻る局面もあった。報道内容も、退陣の時期は各新聞社により異なっている。退陣は石破総理自身がお決めになることだろうが、ご本人が表明したわけではない。
市場では石破政権は日米交渉で成果を上げたのだから参院選で大敗を喫したものの延命するのではという見方もあるが、この成果を花道に選挙の責任を取って退陣という見方もあるようだ。
石破政権の先行きは政治の話であり想像もつかないが、退陣の観測報道により小幅ながら円安に振れる動きを示したことは教訓だ。
日米通商交渉の合意を日銀はどの程度不確実性低下と判断するのか
もっとも、やや唐突に日米通商交渉は合意したが、詳細は明らかではなく、ドル円の方向を占うには確認すべき項目も多い。現時点では、自動車関税は引き下げで合意されたが、その他の品目別関税の取り扱い(鉄鋼やアルミニウム、調査中の同、半導体など)は今後確認する必要がある。
合意されたものでも、例えばミニマムアクセス米の米国の輸入割り当てがどの程度になるのかなどの見方は割れている。日本は米国やタイなどからミニマムアクセス米を年間76.7万トン輸入しているが、米国産は34.6万トンで全体の約45%となっている。どの程度米国に割り振るのかなど、今後の確認すべきポイントは残されている。
日本の債券市場では、今回の日米合意で短期から長期セクターまで利回りが上昇した(図表3参照)。10年債利回りで見ると1.6%近辺まで上昇したが、主な押し上げ要因はリスクオンだろう。
別の要因として、仮に石破首相退陣となれば、消費税減税など財政政策拡大を標榜する政権が想定されることも長期金利の上昇圧力のようだ。
今後の日銀の金融政策にも影響がありそうだ。仮に早期退陣、総裁選挙となれば目先の政策変更は控えられるかもしれない。しかし、より影響が大きいのは不確実性の後退による利上げ判断前倒しの可能性だろう。日銀はこれまで繰り返し、米国の関税政策による不確実性を据え置きの理由としてきたからだ。23日に講演があった日銀の内田副総裁は日米の関税合意について非常に大きな前進と述べ、次回の会合(7月30日~31日)に伴い発表される展望レポートに合意内容を反映させる考えを示唆した。合意内容の詳細はこれからという面はあるが、年内に日銀が追加利上げを行う可能性は高まったと筆者は考えている。その場合、為替など他の市場への影響にも注意したい。
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