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- 日銀、タカ派の展望レポート、ハト派の総裁会見?
日銀は7月の金融政策決定会合で政策金利を0.5%に据え置くと発表し、経済・物価情勢の展望(展望レポート)も発表した。展望レポートは米国との関税交渉の合意を受けた不確実性の低下を指摘し、物価見通しも上方修正された。一方、植田総裁の会見はハト派的で、市場はその発言に反応し円安が進行した。ただし、日銀は利上げ路線を維持しており、データや日銀の情報発信を注視する必要がある。
7月の日銀会合は展望レポートと会見のトーンがやや異なった印象
日銀は7月31日に終了した金融政策決定会合(会合)で、政策金利である無担保コール翌日物金利の誘導目標を0.5%に据え置くことを全会一致で決定した(図表1参照)。1月会合で0.5%に引き上げて以来、4会合連続で現状維持となった。
今回の会合では3ヵ月に1度更新される経済・物価情勢の展望(展望レポート)も発表された。米国との関税交渉で一定の合意があったこともあり、展望レポートではリスク要因の低下が指摘されるなどタカ派(金融引き締めを選好)よりであった。
しかし、植田日銀総裁の会見はハト派(金融緩和を選好)寄りで、会見後に為替市場では円安が進行した。
展望レポートは概ねタカ派的なトーンであったと見られる
今回の日銀会合に伴う発表では、展望レポートはタカ派的、植田総裁の会見はハト派的であった。市場は結局、より植田発言に反応したようだ。両者のポイントを確認した後、今後の展開を考える。
最初に展望レポートにおける経済指標の見通しを見ると、25年度のGDP(国内総生産)成長率とコア消費者物価指数(CPI)などが上方修正されている(図表2参照)。ただし、GDP成長率は25年度のみ0.5%から0.6%に小幅上方修正されたにとどまった。展望レポートは通商政策等に関し、日米間の交渉が合意に至ったことへの言及はあるが、合意に至ったのは展望レポート発表の1週間程前であり、反映の程度も限られると思われる。
明確なのは物価見通しの上方修正だ。25年度のコアCPIは2.2%から2.7%へと大幅に上方修正された。もっとも、これは食料価格の高騰など物価の実態を反映させた面が大きいようだ。注目したいのは、小幅ではあるが27年度が引き上げられたことだ。今後の物価展開は、26年度については成長ペースの鈍化などで伸び悩むが、27年度のインフレ率は上昇するというシナリオは変わらない。そうした中、27年度を2.0%に上方修正したことは、物価目標と整合的な水準に回帰することへの確度が高まったことを示唆しているようだ。
また、展望レポートは「リスク要因」について今回は、「海外の経済・物価動向を巡る不確実性は高い状況が続いており」と表現し、前回の「きわめて高く」からトーンダウンさせ、不確実性の低下を指摘している。
リスクバランスにおける物価の見通しについては、前回の展望レポートでは「25年度と26年度は下振れリスクの方が大きい」としていたが、今回は「概ね上下にバランスしている」とインフレ鈍化のペースは鈍い方向にシフトさせた。
不確実性が低下したとの見方や、物価認識を踏まえると展望レポートのトーンは、どちらかといえば、タカ派寄りであろう。
植田総裁の会見はハト派的だが、利上げ路線はしっかり維持された
次に植田総裁の会見内容を確認する。
日米関税交渉については、合意は大きな前進であり、日本経済を巡る不確実性の低下につながると素直に評価した一方で、各国通商政策など今後の展開や影響を巡る不確実性は残ると指摘した。今後については、データにどのように影響するかを見守る意向を表明した。合意したからというだけで利上げという即断即決は考えにくいようだ。
インフレ率が高止まりする一方で、様子見が続く可能性も示唆され、複数の記者から利上げの遅れ(ビハインド・ザ・カーブ)の懸念を問われた。植田総裁は「ビハインド・ザ・カーブに陥っているとは思わないし、そうなる可能性が高いと思っていない」と懸念を否定した。これらのやり取りから、会見はハト派的ではとの見方が優勢となったようだ。
植田総裁が「足元の為替レートは見通しの前提から大きくずれていない」と発言したことは円安容認と捉えられた可能性もありそうだ。また、修正幅が大きかった25年度物価見通しについては、25年度物価見通しの上方修正だけで金融政策が左右されるものではないと述べている。
会見を通して植田総裁は、日米通商交渉の合意は不確実性の低下につながる点で評価し、物価安定目標の実現に向けた確度は上がったと評価する一方で、交渉が残る地域もあり、日本経済への不確実性は引き続き高いと指摘している。日米通商交渉合意後の7月23日に講演した日銀の内田副総裁も植田総裁とほぼ同様の見解を述べた。日米合意は日銀の利上げ路線を支持する要因ではあるが、関税の影響も見守りたいようだ。
展望レポートと植田総裁の会見はややトーンが異なる面もあったが、筆者は展望レポートに即して今後を見通したいと考える。植田総裁も会見で、基調的なインフレ率は、2%を下回っているが、労働需給の引き締まりや賃金上昇を価格転嫁する動きが続いていることから、2%に向け緩やかに上昇を続けていると述べている。利上げ路線はしっかり確保されている点に何ら変化はないようだ。
会見がハト派寄りとされた植田総裁の発言の中にも、その解釈に再考の余地がありそうなものも含まれているようだ。例えばビハインド・ザ・カーブに対する質問は他の中央銀行の記者会見でもよくある質問だが、「遅れてます」という回答を筆者は寡聞にして耳にしたことがない。
日銀の利上げ路線は維持されると想定しているが、合意後の不確実性のデータへの影響への確認が必要となると、10月会合での利上げの可能性は後退したようだが、ゼロではなかろう。今後もデータと日銀の情報発信に注視が必要だ。
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