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- 8月米雇用統計、労働市場の減速感がより明確に
8月の米国雇用統計では、非農業部門の就業者数が市場予想を下回り、失業率は4.3%と上昇傾向を示した。特に製造業や建設業などで雇用が減少し、労働市場の減速感が一段と明確になった。失業率はじり高で、労働参加率は依然として低水準で、移民政策の影響が考えられる。これらの結果から、年内3回の利下げの可能性は高まったとみているが、同時にデータ次第の姿勢は維持すべきだろう。
8月の非農業部門就業者数は市場予想を下回り景気減速感が示唆された
米労働省が9月5日に発表した8月の米雇用統計で非農業部門の就業者数は2.2万人増、市場予想の7.5万人増、前月の7.9万人増(速報値の7.3万人増から上方修正)を下回った(図表1参照)。6月は1.4万人増から1.3万人の減少に修正された。就業者が減少したのは新型コロナウイルス禍で混乱した20年以来。それを除けば10年9月以来、およそ15年ぶりとなる。
失業率は4.3%と、市場予想の4.3%に一致したが、前月の4.2%を上回り、21年10月以来の高水準となった。平均時給は前月比で0.3%上昇と、市場予想、前月と一致した。前年同月比では3.7%上昇と、市場予想(3.8%)、前月(3.9%)を下回った。
部門別に就業者数の伸びを見ると、幅広い部門で伸びが軟調となった
8月の米雇用統計は米労働市場の減速感を一層明確にする内容だった。前月の米雇用統計で非農業部門の就業者数は大幅に下方修正されたことなどで米労働市場の減速感は示唆されたが、8月はこの確度を高め、景気減速への懸念が強まった。
就業者数の伸びは1〜4月に月平均12.2万人のペースで増えていたが、5〜8月に2.7万人増まで鈍った。就業者数の伸びを部門別でみても、比較的堅調だったのは娯楽・宿泊や小売りなどに限られる(図表2参照)。「製造業」や「人材派遣業」,に加え図表にはないが「建設業」など幅広い業種で雇用はマイナスに転じている。また、人手不足などを背景にこれまで雇用をけん引してきた「教育・医療」の採用の勢いは鈍化した。これが一時的なものなのかは注意する必要がある。
なお、政府部門は前月比1.6万人減となった。財政支出抑制に向けた連邦政府職員の解雇が背景だ。ただ、足元の解雇急増というよりも、過去の解雇者のうち、解雇後も一定期間は給与が支払われる人(労働省は支払いを受けている人は就業者としてカウントすると指摘)の支払い期限切れが統計に反映された面もあるようだ。
部門別の就業者数で気になるのは製造業、建設業、鉱業からなる財生産部門がいずれも前月比で就業者の伸びがマイナスとなったことだ。財生産部門は関税政策など不確実性を受け、新規採用も含め投資に慎重なことが背景と見られるが、利下げの遅れに対する圧力が高まるかもしれない。
失業率は質が悪化、一方で、データの解釈には慎重さも求められよう
8月の失業率(U3)は4.3%(4.324%)とじり高傾向が確認された(図表3参照)。4.3%という水準は米連邦準備制度理事会(FRB)の長期見通しである4.2%と大差ないことや、FRBの25年(10-12月期)の見通しである4.5%を下回っているから堅調な水準という見方が市場の一部にある。もっとも、足元の失業率の解釈には何点か注意も必要だ。
通常の失業率(U3)の失業者に、経済的理由によるパートタイム就業者を失業者にカウントして算出した失業率(U6)は8月が8.1%と、7月の7.9%を上回り、21年10月以来の水準だった。U6失業率の上昇から失業率の内容(質)には注意が必要だ。
8月の労働参加率は62.3%と前月を上回ったが、依然低水準だ。労働参加率の低下は労働市場からの退出など質の悪化を示唆する傾向がある。今後も注視が必要だろう。労働参加率が低下した背景はトランプ政権の移民政策で不法移民の多くが労働市場から離脱したことが大きいと考えられている。米国の就業者を出生地別に分けてみても海外生まれ(移民に相当)の就業者数の減少からも明らかだ(図表4参照)。
ただし、最近の調査レポートで労働参加率減少の要因分析を見ると、年初からの労働参加率の低下は外国生まれ労働者の労働参加率の低下だけでなく、米国生まれの労働者の労働参加率も軟調なようだ。この原因について、いくつかの候補はあるが、筆者は特定できていない。最近の労働指標の解釈には慎重さが求められそうだ。
8月の米雇用統計は労働市場の減速感を示唆した点で、年内3回の利下げの可能性を高めた。筆者は年内9月と12月の2回と見ていたが、今後のデータ次第では変更するかもしれない。ただし、来年については、市場が織り込む程には利下げを見込んではいない。
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