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- ECB会合プレビュー:金融政策と共に気になる話題
欧州中央銀行(ECB)の9月の政策理事会(会合)では政策金利の据え置きが確実視されている。ただ、先行きについては利下げ終了という見方がある一方で、再利上げ観測も根強いためECBスタッフの経済見通しなどに注意を払う必要がある。金融政策以外でもフランスの政局不安がフランス国債利回りを押し上げている状況や、ユーロ圏のデジタル通貨戦略などが記者会見で取り上げられるかもしれない。
9月のECB政策理事会は幅広く据え置きが見込まれている
欧州中央銀行(ECB)は9月11日に政策理事会(会合)の結果を発表する。市場では7月会合に続いて政策金利の据え置きが確実視されている。また、ECBメンバーの中でも発言内容が注目されやすいビルロワドガロー・フランス中銀総裁やシュナーベル理事は据え置きを支持する発言を9月月初に行っている。今回の会合は、政策金利については無風の据え置きが予想される。
今回の会合ではECBスタッフによる四半期毎のユーロ圏経済見通しも公表される。図表1は6月会合時に発表されたものだが、先日発表された4-6月期のGDP(国内総生産)成長率は前年同期比1.5%増と堅調だった。今回発表される見通しでは成長率の上方修正が見込まれる。一方、インフレ率の修正は小幅にとどまりそうだ。
今回更新されるECBスタッフの経済見通しで今後の金融政策の試金石
9月のECBの会合では幅広く据え置きが見込まれていることから、注目はむしろ今後も据え置きを続けるのかに絞られそうだ。なお、会合後の記者会見では今後の金融政策以外にも幅広いトピックが取り上げられる可能性がありそうだ。
まず、ECBの今後の金融政策を占ううえでは、今回更新される経済見通しが注目される。筆者はユーロ圏の成長率は25年、26年ともに1.3%増を見込んでいる。今回の更新で、25年に加え、26年についても小幅ながら上方修正の余地があるように思われる。
注目は消費者物価指数(HICP)であろう(図表2参照)。8月は総合HICPが前年同月比で2.1%上昇と概ね見通し並びに物価目標通りだった。しかし、構成指数で内訳をみると、サービスは鈍化傾向だが高水準だ。一方、衣料品などモノの価格を反映する財は関税の影響を受けやすいとみられるが、足元は低水準だ。ただし今後は上昇する可能性を懸念する声もある。シュナーベル理事は「関税は差し引きでインフレ要因」と発言しており、インフレリスクは上方向を見込んでいるようだ。
一方で、サービス価格の鈍化が続くなどを背景にインフレ率が物価目標の2%を有意に下回ることを懸念する声も一部にあり、その場合は追加利下げも示唆される。ECBの9月会合より後の金融政策については、利下げ停止の見方が根強い一方で、追加利下げ観測にも一定の支持が見られる。今後を占ううえで、ECBスタッフによる経済見通しには注目が必要だろう。
ECB会合後の記者会見では金融政策以外のトピックに注目したい
会合後のラガルド総裁に対する記者会見では、金融政策以外に(筆者が)関心の高いトピックもある。その1つがフランスの政局だ。
26年度予算案の支持固めに向け、9月8日にバイル首相は信任投票を実施したが、投票の結果内閣は不信任、バイル内閣は総辞職となったことは報道の通りだ。フランスのマクロン大統領は9日、前政権で国防相を務めたセバスチャン・ルコルニュ氏を新首相に指名した。このため、解散総選挙という政局不安を高めるシナリオは後退したが、予算案の可決の困難さに変わりない。
政局不安を反映してフランス国債利回りはドイツとの利回り格差が拡大し、財政に不安のあるイタリアを上回る動きを見せた(図表3参照)。ECBはフランスなど加盟国個別の財政問題にコメントしないのが通例である。ただし、ラガルド総裁は加盟国間の利回り格差(スプレッド)をユーロ圏の金融安定化の指標として参照することがある。現状のスプレッドについて何らかのコメントがあるかもしれない。ラガルド総裁は過去にフランス財務相の経歴もあるだけに、なおのこと本音を聞きたいところだ。
別のトピックは欧州(ユーロ圏)のデジタル通貨戦略だ。7月のECB会合は米国のステーブルコインに関連する法案(ジーニアス法)が可決した直後に開催され、記者からデジタル通貨の関する質問があった。ラガルド総裁は中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC)であるデジタルユーロが現実的な選択という考えを述べていた。
しかし、ジーニアス法成立後のステーブルコインに対する関心の高さは米国だけでなく、香港や日本など世界的に広がっている。ユーロ圏におけるデジタル通貨戦略に影響はないのだろうか。
ECB高官が9月にデジタル通貨に関して行った主な発言を振り返ると、ピエロ・チポローネ理事は4日に欧州議会でデジタルユーロは災害時における支払い継続機能に優れるとして、その必要性を訴えた。ラガルド総裁は欧州システミックリスク理事会(ESRB)の年次総会のスピーチでステーブルコインについて発言したが、ユーロ圏の投資家をいかに保護するかといった話題に言及しながらリスクを匂わせる内容だった。両者とも、ECBのデジタル通貨戦略の主体は依然CBDCであるようだ。一方、米国ではCBDCは禁止の方向で、反CBDC法案は上院での審議待ちだ。ECBの会合は、デジタル通貨戦略について語る場所ではないが、関心の高い話題だけに、記者からの質問に耳を傾けたい。
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