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- フランス財政危機の要点と信任投票の展開
フランスのバイル首相は、財政赤字悪化や予算案を巡る政党間対立が深刻化する中、9月8日の内閣信任投票に向けて各政党に支持を訴えている。政府は財政赤字対GDP比率の削減を目指し、祝日の廃止や新税導入などの予算案を示したが、野党の反発が強く、議会で過半数の支持を得るのは困難な状況だ。信任投票の否決により内閣総辞職や政治的混乱が予想され今後の動向に注視が必要だ。
フランスの政治的混乱などを背景にフランス国債利回りは相対的に上昇
フランスのバイル首相は8月31日、約1週間後となる9月8日に実施される内閣の信任投票にフランスの命運が懸かっているとして各政党に支持を訴えた。フランスは、歳出削減案を巡る行き詰まりの打開を目指して信任投票を実施する方針を表明して以来、深刻な政治危機に陥っている。
フランスのバイル首相は8月25日に信任投票を実施すると発表したのは、26年度予算案審議が本格的に始まる前に議会による信任を得る狙いと見られる。フランスの財政問題に市場の目が向き始めてから、フランス国債利回りは上昇(価格は下落)傾向で、ドイツ国債との利回り格差(スプレッド)は拡大傾向だ(図表1参照)。
フランスの財政赤字対GDP比率はユーロ圏の安定目標を大幅に下回る
フランスでは、信任投票の発表後、国債利回りの上昇のみならず、株式市場でもフランスの代表的な株式指数であるCAC40指数が下落基調だ。
根本にはフランス財政の悪化があり、この是正に向けた政府の財政改善案に対し、野党からは反対の声が起きている。まずはフランスの財政状況を確認し、次に政治的混乱について検討する。
フランスの財政赤字対GDP(国内総生産)比率は24年が5.8%(マイナスは赤字の意味なので省略)と、他のユーロ圏の主要国を大幅に下回る(図表2参照)。欧州委員会(EC)が5月に発表した「25年春の経済見通し」によると、25年は5.6%、26年は5.7%と、フランスの財政状況は今後についても改善の余地が乏しいと見込まれていた。
ユーロ圏では、同比率は3%が目標とされている。財政悪化というとよく引き合いに出されるイタリアの24年の同比率は3.4%の赤字と目標に近い。過去のイメージで語られることが多いギリシャは24年から26年の同比率は黒字の維持が見込まれている。
フランス政府は同比率の目標を25年は5.4%、26年が4.6%としている。26年の目標は野心的だが、これを達成すべく26年の予算方針を7月15日に示した。祝日の廃止のほか、高所得者への新税導入や、年金と社会福祉給付を25年の水準で据え置く凍結措置などが主な内容だ。フランスの財政が悪化した理由をバイル首相は「公的支出への依存症のため」などと説明しているが、年金の据え置きなどは、これを反転させる試みだ。
また、祝日については、イースター(復活祭)後の月曜日「イースターマンデー」と5月8日の「戦勝記念日」の2祝日の廃止を提案した。労働日を増やして債務を減らそうということだが、さすがに反発も見られた。7月に示された当初の予算方針に野党の反応は冷淡だ。フランス政府は9月8日までに予算案を修正して、難局を乗り切る構えだが、見通しは立っていないようだ。
バイル政権の維持は至難の業、今後の展開は波乱含み
次に、9月8日の内閣信任投票でバイル内閣が国民議会で過半数の支持を確保する可能性は低く、政権の維持が危ぶまれている。
フランスでは昨年も同様の政治混乱があった。24年9月に発足したバルニエ政権(当時)はわずか約2ヵ月後に総辞職した。財政改革を盛り込んだ25年予算案を巡り、野党の強力な反対を受け不信任案が可決しからた。なお、25年予算は25年2月に成立した。バルニエ政権の後を受けたバイル政権が、議会の採決を経ずに予算法案を成立(憲法第49条第3項を発動)させたためだ。
しかし、バイル政権は26年予算案を前に、前政権と同様の困難に直面している。今年2月に25年予算を成立させたとはいえ、少数与党であることについては、前政権と変わりはない(図表3参照)。フランス下院は定数577議席だが、与党は過半数を下回るとみられ、信任投票の可決、つまり26年予算案の通過には野党の協力が必要だ。
しかし、野党の協力は考えにくい。右派連合の最大勢力で、実質的にはマリーヌ・ルペン氏率いる国民連合は当然ながら信任に反対し、議会の解散と総選挙を求める構えだ。左派連合は多少スタンスが異なる政党もあるようだが、国民連合同様に信任には反対だ。
左派連合では、政策的には本来水と油のはずだが、ユーロ圏加盟国に求められる財政条件の1つである財政赤字対GDP比率(3%)の緩和を求める姿勢は共通しており、バイル内閣が目論む緊縮財政を盛り込むとみられる26年予算案には反対で、信任投票に反対する可能性が高い。
仮に来週の信任投票が否決されれば、バイル内閣は総辞職に追い込まれよう。その後は、同様な少数内閣発足というこれまで同様に政治的不安定さが繰り返される可能性もある。来週のフランスの信任投票後の展開に注視が必要だ。
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