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9月FOMC、利下げ再開ながら先行きに不確実性
梅澤 利文
2025/09/18

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概要

FRBは9月のFOMCで政策金利を0.25%引き下げ、年内にさらに2回の利下げが示唆された。労働市場の悪化が利下げの主因とされ、インフレリスクをやや後退させた。市場はFOMCを無難に消化し、株式や国債の変動は小幅だった。来年以降の利下げ見通しは不確実性が残る。経済成長や失業率は改善が見込まれるも関税などに不確実性が残る。筆者は年内残り2回、来年1回の利下げ予想にとどめている。




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9月FOMC、市場予想通りに利下げを再開、年内残り2回の利下げを予想

米連邦準備制度理事会(FRB)は9月16-17日に米連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、市場予想通り政策金利(フェデラルファンド(FF)金利)の誘導目標を0.25%引き下げた。

FOMC参加者の政策金利水準の見通し(ドットチャート、図表1参照)によると、中央値の位置から判断して25年残りの利下げは2回(0.25%を2回、10月と12月)が示唆される。一方、26年の利下げは中央値で見ると(25年年末から)1回と「控えめな」利下げ予想だ。しかし、2回の利下げを4名、3回は3名、4回を2名が想定している。合計すれば2回以上の利下げを9名が予想している。

パウエル議長は労働市場の悪化を防ぐリスク管理が利下げの背景と説明

利下げを再開した9月のFOMCのポイントを、声明文、FOMC参加者の経済見通し(図表2参照)、パウエル議長の記者会見から拾い出し、今後の展開を以下に検討する。

まず、今回利下げに踏み切った背景を特定するとすれば、労働市場悪化への対応があげられる。この点については、声明文で、米労働市場を前回のFOMCでは「堅調」としていたが、今回は「雇用の伸びは減速している」と下方修正した。また、声明文2段目のリスクバランスの中で、「雇用の下振れリスクが高まった」と追記したことなどから明らかだ。

さらに会見でパウエル議長は、労働市場の堅調さが失われつつある中、インフレ上昇リスクから雇用下振れリスクへとシフトさせたと指摘したことなどにも労働市場への配慮がうかがえる。インフレリスクについては「関税の影響は予想より遅く、規模も小さい」と表現している。インフレリスクを重視し続けてはいるがややトーンダウンしたようだ。

図表1に示したドットチャートによれば、年内追加利下げは2回が示唆された。9月FOMC前までの市場の主な利下げ予想は3回(9月、10月、12月)が優勢だったが、2回(9月、12月)を予想する声も少なくなかった。9月の利下げも含め3回の利下げがドットチャートで示された点だけを取り出せば、ハト派(金融緩和を選好)寄りとも見られよう。

しかし、26年と27年の予想利下げ回数は1回のみであり、市場の積極的な利下げ織り込みに比べ、タカ派(金融引き締めを選好)な印象だ。パウエル議長は会見で今回の利下げを「リスク管理」のための調整と表現した。これは景気を底上げするような積極的な利下げというよりは、消極的な利下げという色合いが濃いように響く。図表2で26年の失業率予想を見ると、4.4%に下方修正されている。利下げの効果で労働市場が改善すると示唆しているようで、悪化は一時的という認識なのだろう。

なお、図表1のドットチャートで25年末の政策金利が9月時点と変わらないことを予想している参加者が1名いる。これは9月利下げに反対で年末まで据え置きを支持していることを示唆している。このようなことができるのは、投票権のない地区連銀総裁のうちの誰かではないだろうか。反対に、25年末で遠く離れて3%割れを支持している参加者は0.5%の利下げを主張したミラン理事の可能性が高そうだが、他に賛同者はいないようだ。

事前の市場予想ほどの利下げは示されなかったが、市場には落ち着きも

次に、今後の展開を占ううえで市場の反応を確認すると、26年以降の想定利下げ回数が市場の織り込みを下回ったものの、米株式市場は大崩れせず、米国債の変動も比較的小幅であった。18日の東京時間では米株式先物では落ち着きを取り戻す動きとなった。先々の利下げよりも、まずは年内3回(今回を含め)の利下げが確保されたことを市場は好感したのかもしれない。

また、FOMCというイベントを無難に消化したことも市場の落ち着きの背景だろう。7月のFOMCでは利下げ支持の立場からウォラー理事とボウマン副議長の執行部2人が反対票を投じる異例の展開となった。ドットチャートを見ると、今回のFOMCでも年末の政策金利の予想にばらつきはあるが、一応コンセンサスは形成できたと言えそうだ。

ただし、今後のコンセンサス形成には難しさも想定される。26年のドットチャートを見ると、来年1回の想定はわずか2名で、利下げ消極派と積極派のふた山にわかれている。図表2にあるように26年の経済成長見通しは上方修正され、失業率は低下が見込まれる一方で、インフレ見通しは上方修正された。修正は小幅ではあるが、利下げ消極派を支持する内容だ。

一方、インフレ見通しの上方修正の背景として関税の影響の長期化を見込んでいるのであれば、不確実性は高く下振れの可能性もある。関税の影響が読みにくいのはパウエル議長も繰り返し指摘している。そのうえ、住宅市場など金利感応度の高いセクターにとり金利負担は小さくない。利下げに積極的となる要因も多そうだ。

来年の経済に不確実性が高いうえに、FOMC参加者の顔ぶれも変動が想定される。パウエル議長らの任期を控え、来年のドットチャートや経済予測にはFRBの人事も考慮する必要があるが、想定は困難だ。

このような局面において、筆者は予測困難なFRB人事などは脇に置き、経済状況から判断して、年内残り2回と来年1回の利下げを想定している。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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