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中銀ウィーク:ブラジルとインドネシアの金融政策
梅澤 利文
2025/09/24

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概要

先週は米FRBをはじめ各国中銀が金融政策を発表した。ブラジル中銀はインフレ懸念から政策金利を高水準で据え置き、物価抑制姿勢を維持しつつ、財政政策や対米関係悪化などにも警戒心を示した。一方、インドネシア中銀は景気下支えを重視し、市場予想に反し利下げを実施。通貨ルピア安が加速した。政府の金融政策への関与も懸念されている。両国の金融政策の違いは通貨動向に表れている。




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中銀ウィーク、主要新興国の中央銀行も金融政策を発表した

先週は米連邦準備制度理事会(FRB)など多くの中央銀行が金融政策を発表する「中銀ウィーク」であった。当レポートでは新興国の中から、ブラジルと、次にインドネシアを取り上げる。

ブラジル中央銀行は9月16日-17日に開催した金融政策決定会合(以下、会合)で、市場予想通り政策金利を15%のまま据え置くと発表した(図表1参照)。据え置きは7月に続き2会合連続で、9人の委員の全会一致による決定だった。

ブラジル中銀はインフレに対し、鈍化傾向は認識するものの、警戒心を緩めなかった。今後の金融政策の方針として、(すでに高水準である)政策金利を長期的に据え置く可能性を示唆した。

ブラジルは物価が減速傾向ながら高水準の政策金利を据え置いた

ブラジルとインドネシアを取り上げる。会合後の両通貨の動きは対照的で、ブラジルではレアル高傾向が継続した一方で、インドネシアではルピア安が続いた。この背景を検討することとしたい。

ブラジル中銀が据え置きを決めた主な背景はインフレへの懸念だろう。ブラジルの代表的な消費者物価指数(IPCA)は8月が前年同月比で5.13%と、足元鈍化傾向ながら依然としてブラジル中銀の物価目標(3%±1.5%)の上限を上回っている(図表2参照)。また、ブラジル中銀の物価見通しも25年については今回4.8%と、前回会合時の4.9%から下方修正したものの、26年の3.6%、27年1-3月期の3.4%からは据え置かれ、依然インフレ懸念への対応をブラジル中銀は重視している。ブラジルの実質金利は高水準で、景気への影響は確かに懸念される。しかし、ブラジル株式市場は過去最高値近辺で推移している。また、声明文ではブラジルの労働市場が比較的堅調な点を指摘するなど利下げを急ぐ状況でもないようだ。

反対に、輸入物価のインフレに対する影響度が大きいブラジルは通貨安に対する警戒心を怠れない。過去において通貨安要因として、ブラジルの拡張的な財政政策が、たびたびレアル安を引き起こした。今回の議事要旨でも、具体的ではないが、財政政策への警戒心は怠っていない。

別の懸念材料は対米関係だろう。8月にトランプ政権は、ブラジルに対して合計50%の関税を表明した。関税引き上げの理由の1つとしてトランプ大統領は、進行中のボルソナロ前大統領に対する裁判を挙げた。これに対し、ブラジルのルラ大統領は23日に国連総会で(米国を念頭に)国家主権への侵害を批判する演説を行うなど、両国の対立に解決の目途は立っていない。潜在的なリスク要因として注意が必要だ。

こうした中、ブラジル中銀は今回の声明文で政策金利の当面の据え置きを示唆するとともに、必要に応じて(前回会合同様)利上げの可能性があることを指摘した。市場では実質金利の水準から早期の利下げが見込まれている。筆者も次のアクションとして利下げを見込むが、年内は難しそうだ。

インドネシア中銀の市場予想に反する利下げで気になるルピアの行方

次に、ブラジルとは対照的なインドネシア中銀の金融政策を振り返る。インドネシア中銀は17日、市場予想の据え置きに反し、政策金利を0.25%引き下げ、4.75%にすることを決定した(図表3参照)。利下げは3カ月(3会合)連続となった。

景気テコ入れを重視したことが利下げの背景であることは声明文で冒頭に言及していることから疑問の余地はない。そのうえ、利下げ余地を今後も探ると指摘しており、政策スタンスはハト派(金融緩和を選好)寄りであると言えよう。

インドネシアのGDP(国内総生産)成長率は5%前後だが、労働市場は軟調で、消費者信頼感指数は年初から悪化傾向だ。雇用環境の悪化を背景に、反政府デモが報道されたことは記憶に新しい。景気下支えは仕方がない面もありそうだ。

しかし、その副作用として通貨ルピア安が止まらない。市場が今回の会合での据え置きを予想したのは、反政府デモと、財政規律を重視し市場の信任が厚かったスリ・ムルヤニ財務大臣(当時)の更迭を伴う内閣改造を嫌気したからだ。このため会合前からルピア安が進行していた。そもそも、反政府デモの背景には高額な議員手当など経済格差に対する不満もあった。財務大臣の更迭は詰め腹を切らされたとの見方も市場では根強い。

昨年10月に就任したプラボウォ大統領が掲げた選挙公約でもある景気対策(8つのミッション)には財政赤字の拡大や金融緩和を求める内容が含まれている。インドネシア中銀は今回の会合で流動性供給を強化する姿勢を示し、8つのミッションを支持する考えを強調した。政府による中央銀行の政策への関与の大きさが懸念される。インドネシア中銀は伝統的に通貨安抑制を重視してきたが、方針がぶれていないのかを注視している。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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