Article Title
投資家が身構える「新型コロナワクチン」の承認
田中 純平
2020/09/11

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

トランプ米大統領が年末までに新型コロナワクチンを準備すると共和党大会で発言して以降、新型コロナワクチンに関連する動きが慌ただしくなっている。米大統領選前に新型コロナワクチンが米FDA(食品医薬品局)より緊急承認されるか定かではないが、投資家にとっては株式市場の物色対象が変わりかねないイベントなだけに、当面はリスク・コントロールが重要になるだろう。



Article Body Text

アストラゼネカの新型コロナワクチン中断の影響は限定的

トランプ大統領が年末までに新型コロナワクチンを生産すると共和党大会で発言した翌日、そのワクチンを承認する立場のFDAは10月22日に新型コロナワクチンを審議する諮問委員会を開催すると発表した。また、その2日後にハーンFDA長官が臨床試験の最終段階前に緊急使用を許可する可能性があると言及したことが報道された。さらに、9月2日には米CDC(疾病対策センター)が全米50州と5都市の保健当局に11月初めに新型コロナワクチンの投与を始める準備を進めるよう指示したと報道された。

CDCが通達した新型コロナワクチン候補は、「ワクチンA」と「ワクチンB」と表記され実名は伏せてあった。しかし、新型コロナウイルスのワクチン開発・生産・供給を加速させることを目的とした「ワープスピード作戦」を統括するモンセフ・スラウイ博士は米メディアの取材に対し、このワクチンが(臨床試験の最終段階にある)モデルナとファイザーであることを認めたため、同様に臨床試験の最終段階にあったアストラゼネカが除外されていたことが明らかになった。このため、アストラゼネカの新型コロナワクチン開発が一時中断になったとはいえ、そもそもCDCが準備を進めるように指示したワクチンに含まれていなかったことから、新型コロナワクチンの緊急承認に向けたプロセスへの影響は限定的だったと言える。

 

 

大統領選挙前の緊急承認は「既定路線」か?

新型コロナワクチンに関する動きを見る限り、米国は大統領選前に新型コロナワクチンを承認する方向で調整しているように見受けられる。欧米製薬9社が新型コロナワクチン開発は安全性を優先するとの共同声明を発表したが、これは政治圧力に対するけん制もさることながら、副作用を恐れてワクチン接種率が上がらなくなることへの「危機感」があると推測される。このような状況を踏まえれば、少なくとも年内には新型コロナワクチンがFDAより緊急承認される可能性を想定すべきだろう。

新型コロナワクチンが緊急承認され、経済活動の再開がさらに拡大するとの見方が広がれば、これまでコロナ禍で競争上優位とされてきたGAFAMだけでなく、より幅広い景気敏感株にも投資家の注目が集まり、株式市場全体のボラティリティ(変動性)が高まる可能性がある。よって、当面は景気敏感株などにも分散投資を行うことによって、ポートフォリオ全体のリスクを抑制することが重要になるだろう。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、14年間一貫して外国株式の運用・調査に携わる。主に先進国株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。アメリカ現地法人駐在時は中南米株式ファンドを担当、新興国株式にも精通する。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場をカバー。レポートや動画、セミナーやメディアを通じて投資戦略等の情報発信を行う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBCに出演中。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


財政リスクは金利・為替市場に影響を与えるか

岸田政権による次の重点政策

議事要旨に垣間見る、QTのこれまでと今後

米国の長期金利に上昇余地

原油高と物価高が引き起こす米国株の地殻変動