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- 反グローバリゼーション下の投資環境
国際社会の大きな転機は2016年だったのではないか。6月の国民投票で英国国民がEU離脱を選択、11月には米国でドナルド・トランプ氏が大統領選挙に勝利した。これらは、東西冷戦の終結以降進んだグローバリゼーションの否定と言える。来年はその転換点から10年目だが、国際社会の分断、地政学的リスクの高まり、通貨価値下落の可能性を前提に投資戦略を考えるべきだろう。
■反グローバリゼーションの背景
1993年11月、マーストリヒト条約が発効し、EU統合が達成された。これを契機とした東欧などからの移民急増が、英国国民に”Brexit”を選択させたと言える(図表1)。また、2016年11月の米国大統領選挙でトランプ氏が主に主張したのは、貿易収支の均衡と移民流入の抑制だった。
1947年3月、米国のハリー・トルーマン大統領(当時)が共産主義の封じ込め政策を発表して以降、1991年12月に旧ソ連が崩壊するまで、約40年間が東西冷戦の時代だ。この間、2回の石油危機を経験するなど、世界経済は分断によるインフレの期間だったと言えよう(図表2)。
旧ソ連の消滅で米国主導のグローバリゼーション、即ち世界市場の統合が始まると、安価で豊富な労働力を抱えた中国、ASEAN諸国、メキシコなどへ主要先進国企業が挙って生産拠点を置き、そこからの輸入が先進国の物価を安定させた。例えば米国の場合、1961~90年までの30年間における消費者物価上昇率は年平均5.1%だが、1991~2020年は2.3%へと大きく低下している(図表3)。これは、米国だけの傾向ではなく、主要先進国に共通のものだった。
そうしたなか、主要国では経済成長の主役が伝統的な製造業からIT、金融へシフト、この分野の企業、投資家に富が集中する反面、新興国の労働者とコスト競争を迫られた伝統的な製造業に従事する層の賃金は相対的に上がり難くなったと考えられる。大きな格差の結果として、EUや移民、自由貿易への反発が強まったのだろう。
12月4日、米国政府が発表した新たな『国家安全保障戦略』には、「米国のエリート層は強い欺瞞に満ち、破壊的なグローバリズム、そして『自由貿易』と呼ばれるものへの賭けを行い、米国の経済的・軍事的優位性の基盤である中流階級と産業基盤を空洞化させた」と書かれていた。これは、トランプ政権の考え方を反映していると見られる。
■投資戦略の前提は「混沌」
政治の方向は、世界経済の動きと不可分だ。例えば米国の場合、東西冷戦初期のドワイト・アイゼンハワー、末期のロナルド・レーガン両大統領は2期8年間を全うした(図表4)。しかし、その間の1961~1980年の20年間は、ジョン・F・ケネディ、リンドン・ジョンソン、リチャード・ニクソン、ジェラルド・フォード、ジミー・カーターの5名の大統領が就任している。暗殺、スキャンダルによる辞任、選挙の敗北など理由は様々だが、米国の政治が揺れていたことを示す証拠なのではないか。
一方、グローバリゼーション期においては、ビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュ、バラク・オバマ、3名の大統領が連続して2期を務めた。現職のトランプ大統領は2期目だが、オバマ大統領以後、4年毎に政権が入れ替わっているのは、経済の不透明さと連動した動きと考えられる。インフレは逆から言えば通貨価値の下落であり、それは国家権力に対する市場の見方を反映しているだろう。
分配政策の欠如が反グローバリズムを生み、反グローバリズムは経済成長の阻害要因になりつつある。近い将来、ウクライナとロシアの停戦合意など、国際情勢には新たな動きがあるかもしれない。ただし、仮にロシアによるドンバス地方の実効支配を認めるような決着になれば、強国による領土への野心を肯定することになりかねない。
国際社会の分断、地政学的リスクの高まり、そして通貨価値の下落は2026年も続くと考えられる。長期的な投資戦略は、そうした混沌とした世界の状況を反映したものとする必要がありそうだ。
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