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イラン攻撃:時間が決める勝敗
市川 眞一
2026/03/10

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概要

米国とイスラエルは、作戦開始以来、海空軍、ミサイル、サイバー技術でイランを圧倒している。もっとも、対イラン攻撃は、米国内において高い支持を得ているわけではない。ドナルド・トランプ大統領は、11月の中間選挙を意識せざるを得ず、早晩、作戦の終了期を模索するのではないか。イランは猛攻に耐え、ホルムズ海峡に脅威を与えることで、外交交渉に持ち込む構えと見られる。



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■ 有権者の反応はネガティブ

リアル・クリア・ポリティクス(RCP)の集計では、3月6日現在、トランプ大統領の支持率は43.4%、不支持率は54.6%で、イラン攻撃後も顕著な変化はない(図表1)。一方、イランへの軍事作戦に関して、報道大手の世論調査を個別に見ると、保守系とされるFOXニュース以外、「反対」が「賛成」を10%ポイント以上上回った(図表2)。



今年11月3日に中間選挙があり、連邦上院の34議席、下院では全435議席が改選される。この選挙で上院、もしくは下院で共和党が過半数を失えば、任期後半2年間を残して、トランプ大統領はレームダック化する可能性が強い。さらに、下院で民主党が過半数を占めた場合、同大統領は3回目の弾劾訴追を受けることも考えられる。

CBSニュースの世論調査を見ると、対イラン作戦に関して、無党派層のうち37%が「賛成」と答え、「反対」は63%に達した(図表3)。激戦の選挙区においては、無党派層が帰趨を決める鍵を握る。トランプ政権の本音としては、この作戦の成功を十分に米国の国民にアピールできる成果を得た上で、早期に収束を図り、政権への有権者の支持回復へ向けた起点としたいのではないか。

■ 攻撃は外交交渉へのステップ

海空軍、ミサイル、サイバー攻撃による攻撃により、今のところ戦況は、米国、イスラエルが圧倒的に優勢のように見える。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によれば、2024年、イランの国防予算が79億ドルだったのに対し、イスラエルは465億ドル、米国は9,973億ドルだ(図表4)。米国の場合、中東に割けるのはその一部としても、経済力による戦力の格差は極めて大きい。



トランプ大統領は、3月4日、対イラン作戦の現状を「10点満点で15点」と評価、6日にはトルゥースソーシャルへの投稿でイランに対し無条件降伏を要求した。もっとも、ここまでの展開は想定できたことであり、問題は空爆、ミサイル、サイバー攻撃でイランを早期に降伏へ追い込めるかだろう。



トランプ大統領の”MAGA”は、米国が軍事力を誇示、世界の警察として機能するとの意味ではなく、貿易不均衡の是正や不法移民の国外退去を通じて、米国の経済力による恩恵を米国国民にもたらすとの考え方である。従って、ベネズエラへの武力介入や、対イラン軍事作戦は、元々のMAGAグループからは路線の逸脱に見えているようだ。



3日にテキサス州で行われた民主党の連邦上院予備選では、最近まで無名だったジェームズ・タラリコ州下院議員が指名を獲得した。注目を集めているのは、共和党の牙城と言われる同州において、同日に行われた共和党予備選の総得票数216万票に対し、民主党が231万票と上回ったことである。仮にテキサス州で民主党候補が勝てば、連邦上院での与野党逆転が視野に入るだろう。



ちなみに、RCPの集計では、3月6日現在、中間選挙の投票先で「民主党」との回答が46.7%、「共和党」の42.4%を4.3%ポイント上回っている(図表5)。イランでの戦闘長期化は、11月へ向け共和党内の不協和音を招きかねない。



米国が地上軍を投入、イランの体制転換を図る場合、相当な犠牲を伴うリスクがある。トランプ大統領にとり、大きな賭けになるだろう。逆に言えば、イランは、米国、イスラエルの猛攻に耐えつつ、ホルムズ海峡の緊張感維持を図るのではないか。原油価格の上昇などにより、米国国内で厭戦気分が高まれば、中間選挙へ向け、トランプ大統領を政治的に追い込めるからだ。同大統領が攻撃に使える時間は、それほど長くないと考えられる。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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