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中東危機下における米国経済
市川 眞一
2026/03/31

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概要

米国がイスラエルと共に行ったイランへの先制攻撃は、1ヶ月を経て、当初の想定とは異なる方向へ進んでいる模様だ。イランはホルムズ海峡を実質的に封鎖、エネルギーの供給不安が米国を含む世界経済を揺るがせている。ただし、この攻撃開始以降、ドルはむしろ他の主要通貨に対して上昇した。石油・天然ガスの純輸出国であることに加え、金融システムの耐久力が背景ではないか。



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■ イラン攻撃以後、買われるドル

第2次トランプ政権発足後、ドルは他の主要通貨に対して軒並み下落した。もっとも、イランへの攻撃開始以降、対スイスフランを除きリバウンドしている(図表1)。理由の1つは、米国が石油・天然ガスの純輸出国であることではないか。価格面での影響は受けても、エネルギーの調達に関し、自立した経済であることが評価されているのだろう。



また、FRBによる利下げ観測が遠退いたことも背景と見られる。シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)が算出した市場が織り込む政策金利は、当面、FFレートの誘導水準が現在の3.50~3.75%で維持されるとの見通しを示している(図表2)。イラン攻撃前は、2026年中に2回程度の利下げが想定されており、金融政策に関する市場の観測は、この1ヶ月で大きく変化した。

ドルと対象的なのが円だ。日本は化石燃料を海外に依存している上、物価対策として電力・ガス、ガソリンへの補助金を再開した。インフレ下での財政支出拡大は、国債消化への懸念を通じて円安の要因と言えよう。また、日銀の利上げが進まない場合、3%ポイント近い日米の短期金利差が続く。それらが、円売り材料になっている模様だ。目先を重視する高市政権の経済・財政政策は、中東危機下でむしろ逆効果なのではないか。

■ 米国経済に相対的な耐久力

リアル・クリア・ポリティクス(RCP)の集計によれば、ドナルド・トランプ大統領の支持率は、3月27日現在、2期目の就任以降で最低となる41.0%へと低下した。イランへの攻撃でガソリン価格などが急騰、有権者の不満が強まっているのだろう。

一方、米国の金融市場を見ると、一般に経済危機が懸念される場合、顕著な反応を示すハイイールド社債の利回りは落ち着いている(図表3)。また、株式市場は不安定ではあるが、S&P500のインプライド・ボラティリティを指数化したVIXは、過去のパニックに比べ極端な水準に達したわけではない(図表4)。『恐怖指数』とも呼ばれるこの指数も、経済の混乱への懸念に強く反応する指標だ。



米国の誤算による中東危機下において、ドルが強含み、ハイイールド社債やVIXが概ね安定しているのは、米国の金融システムが健全性を維持していることが背景の1つではないか。FRBによると、3月18日現在、米国の商業銀行の預貸率は70.2%だった。リーマンショック直前の2008年5月、106.1%に達していたのとは大きな違いだ。



リーマン・ブラザーズが破綻した当時、商業銀行の保有する現金は3,412億ドル、総資産の3.4%に過ぎなかった。結果として、預金者が銀行へ殺到する取り付けが起こると、資産の売却、融資の回収を急がざるを得ず、景気が失速したのである。



足下、米銀の持つ現金は総資産の8.7%に相当する1兆8,769億ドルであり、それ以外に4兆5,393億ドルの国債を保有している(図表5)。仮に中東危機が長期化、インフレ圧力により景気が失速した場合、プライベートクレジット問題などが表面化して、一部の個別行の経営に懸念が生じる可能性は否定できない。ただし、リーマンショック期とは異なり、米国の金融システムはそうした事態に持ち堪えられる体力があると考えられる。

イランへの攻撃が体制転換を狙っていたとすれば、それはかなり難しくなった。また、紛争が長期化した場合、インフレ圧力が強まる見込みで、米国、そして世界経済への影響は避けられないだろう。もっとも、米国経済は、相対的な耐久力を発揮する可能性が強い。むしろ、エネルギー、財政に問題を抱える日本経済の脆弱性が懸念される。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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