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政府債務対GDP比率は減るのか?
市川 眞一
2026/02/16

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概要

自民党を率いて総選挙に圧勝した高市早苗首相は、『責任ある積極財政』の「スピードを加速する」としている。財政に関して責任を示す新たな尺度が、「政府債務対GDP比率」だ。2020年をピークに低下傾向をたどるものの、主な理由はインフレに他ならない。自民党の公約に従い食料品の消費税を非課税化した場合、物価を抑制しつつ、同比率を低下させるのは極めて難しいだろう。



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■ 増加を続ける政府債務

総選挙により自民党が得た316議席は、与党が参議院で少数であっても、内閣総理大臣の指名、予算の成立のみならず、一般法案も単独で通すことが出来る数だ(図表1)。つまり、自民党は公約を実現させる責任を負ったと言えるだろう。



『責任ある積極財政』を掲げる高市首相は、基礎的財政収支の黒字化目標に拘らない意向を示してきた。一方、責任を示す尺度として、政府債務の対GDP比率を「着実に低下させる」としている。

IMFの推計では、2020年に258.4%に達した政府債務残高対GDP比率は、2025年に229.6%へ低下した(図表2)。政府債務残高は年平均0.8%増加したものの、名目成長のペースが大きく上回ったことが要因だ。経済成長による政府債務残高の吸収は、高市首相が目指す方向だろう。

ただし、問題は成長の中身である。2021~25年の実質成長率は年平均1.3%に止まり、名目成長率の同3.6%を大きく下回った。新型コロナ禍による急速な落ち込みの反動があった2021年を除けば、名目成長率3.7%に対して、実質成長率は0.7%に過ぎない(図表3)。つまり、年平均3.0%の物価上昇が、名目成長率を押し上げる主なドライバーだったわけだ。政府債務残高対GDP比率は低下したものの、これは健全なマクロ政策の結果とは言えない。

IMFの最新の推計では、2026年における政府債務残高の伸びは1.4%に達する見込みだ。防衛費の増加に加え、物価対策などを強化してきたことで、政府債務は増加基調が続いている。



■ 意図せざる金利上昇・円安のリスク



総選挙において、自民党は、食料品の消費税について、2年間に限定した非課税化を検討すると公約した。5兆円程度の税収減が想定されるが、財源を赤字国債に依存する場合、政府債務残高は年0.3%ポイント程度上振れる。実質成長率を大きく引き上げられなければ、政府債務残高対GDP比率は減少傾向を維持できないだろう。



また、高市首相は、2月9日の会見で、「国民会議でスケジュールや財源などの課題の検討を進める。給付付き税額控除と合わせて議論し結論を得たい」と語った。つまり、食料品の非課税化を2027年4月に開始、2029年4月から給付付き税額控除へ移行するシナリオが浮上する(図表4)。



もっとも、2028年7月には次の参議院選挙がある上、衆議院の解散は2~3年の間隔であることから、次の総選挙は2028年後半から2029年前半がメドではないか。2029年4月に食料品の消費税率を8%へ戻せば、給付付き税額控除の導入があっても、それは消費税の実質的な増税だ。参議院選や総選挙で改めて争点になる可能性は否定できず、税率を元に戻すのは容易ではないだろう。



さらに、難しい課題は、長期金利の上昇による国債金利負担の急増だ。2026年度政府予算案において、国債の利払い費は13兆371億円とされた。2025年度の補正後と比べ、3兆6,745億円の増加である(図表5)。一方、2026年度予算における租税・印紙税収入は、前年度補正後と比べ3兆370億円増とされた。

今後、景気及び国債市況次第では、税増収分が国債利払い費の増加を賄えなくなる可能性は否定できない。結果的に赤字国債が増発された場合、長期金利には一段の上昇圧力が生じるだろう。



食料品の消費税非課税を実現した上で、政府債務対GDP比率を低下させるのは容易ではない。市場がその難しさを強く感じた場合、意図せざる長期金利の上昇、円安となる可能性がある。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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