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- トランプ大統領の誤算がもたらすインフレ圧力
ドナルド・トランプ大統領は、4月1日、国民向けに演説、対イラン作戦における米国の圧倒的な勝利を強調した。しかし、イランの核開発が抑止されたかは不明で、ホルムズ海峡の実質的封鎖も続いている。トランプ大統領は、イランの国情・抵抗力を見誤ったのではないか。米軍が作戦を終える可能性はあるが、ホルムズ海峡の実効支配を通じ、イランの影響力が強まるリスクも想定される。
■ 米国は作戦終了を模索か!?
トランプ大統領は、4月1日の演説で、対イラン作戦が「ほとんど誰も見たことのないような勝利」を得ていると自賛した。もっとも、全体から受ける印象として、この演説の目的は、近い将来、攻撃を終えるための環境整備だったのではないか。『壮大な怒り作戦』が成功裏に終了したことを宣言するための、言わば前振りの位置付けのようだ。
ペルシャ湾の出口にあり、現在はイランが実質的に封鎖するホルムズ海峡に関して、トランプ大統領は、同海峡を経由した石油を必要としている国が、自ら通行を「確保し、守るべき」と指摘した(図表1)。シェール革命により、石油、天然ガスの純輸出国となった米国にとり、中東産のエネルギーは死活問題ではないと強調したのだろう。
ちなみに、イランが国際社会の脅威になったのは、革命により1979年4月にイラン・イスラム共和国が建国されて以後だ(図表2)。同国を懸念したのは、必ずしも米国、イスラエルだけではない。イスラム革命の波及を恐れた旧ソ連は、1979年12月、イランに隣接するアフガニスタンへ侵攻した。また、1980年9月から8年間に亘ったイラン・イラク戦争は、米国、旧ソ連、アラブ諸国などが支援したイラクの奇襲攻撃が端緒である。
イランは、核や弾道ミサイル開発を進め、イスラム教武装勢力を支援してきた。ただし、イスラム体制をリスクに晒すことを恐れてか、同国が他国へ直接的な武力攻撃を仕掛けたことはほとんどない。昨年の『12日戦争』を含め、イランの反撃は面子を保つための象徴的な意味が強いだろう。
■ トランプ大統領の誤算の背景
ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によれば、2024年、イランの国防予算は79億ドルであり、イスラエルの465億ドルに対し5分の1にも満たない(図表3)。海空軍力、サイバー攻撃などの面で、米国、イスラエルは圧倒的に優位だろう。
他方、バッシャール・アル・アサド大統領の独裁が続いたシリアは、イスラム教アラウィ派による少数支配だった(図表4)。従って、2024年11月、イスラム教スンニ派を軸とする反体制派が攻勢を強めると、わずか3週間で政権が崩壊したのである。
これに対し、イランは国民の90%がイスラム教シーア派だ。現体制に不満はあっても、キリスト教の影響力が強い米国、ユダヤ教が国教のイスラエル、イスラム教スンニ派の中東主要国による攻撃で、国内の結束がむしろ強化された感は否めない。米国、旧ソ連、アラブ主要国が支援したイラクとの8年に亘る戦争と同様の構図だ。
トランプ大統領は、イランを攻撃した当初、体制転換を目指していたと見られる。しかし、それは、イランの国情を見誤った可能性が否定できない。
ちなみに、4月1日の演説において、同大統領は、イランを「化石時代へ引き戻す」と語った。これは、ベトナム戦争当時、北爆を指揮したカーチス・ルメイ空軍参謀総長が残した有名なセリフだ。もっとも、ベトナム戦争は泥沼化し、米国は実質的に敗北して撤退を余儀なくされた。トランプ大統領は、歴史を軽視する傾向があるのではないか。
イランは、圧倒的に劣る軍事力を前提に、非対称戦を展開している。仮に米国がホルムズ海峡の実質的封鎖を放置して作戦を終了すれば、日本、アジア諸国、欧州などは、いずれ同海峡の船舶航行を巡りイランとの交渉を迫られるだろう。それは、イランを弱体化させるのではなく、むしろ世界経済に対する同国の影響力を強化しかねない。
原油、天然ガス価格の高止まりにより、世界のインフレ圧力が強まる可能性に注意が必要だ。
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