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低潜在成長率の要因は投資不足ではない
市川 眞一
2026/04/21

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概要

高市早苗首相は、日本の潜在成長率低迷の要因について、投資不足と考えているようだ。もっとも、日本の固定資本投資対GDP比率は、米欧主要国より高い。日本の問題は、投資の量ではなく、中身だろう。半導体生産の強化を目指した米国のCHIPS法は、安全保障を理由としており、巨大企業へ支援を躊躇わなかった。成長戦略や中小企業対策を目的とする日本と大きく異なる点だ。





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■ 日本の投資比率の水準は高い

高市早苗首相は、3月26日の経済財政諮問会議で、「日本は技術革新力や労働の効率性などの面では他国と遜色がないにも関わらず、国内投資が圧倒的に不足、潜在成長率が低迷している」と語った。もっとも、OECDの主要加盟国23ヶ国のなかで、日本の労働生産性は21番目である(図表1)。日本の構造問題は、この低生産性、即ち低い労働の効率性なのではないか。

一方、高市首相が「圧倒的に不足している」と指摘した国内における投資だが、2025年、民間の固定資本投資は対GDP比で21.7%、政府は同4.6%、合計すると26.4%だった(図表2)。これは、米国の22.0%、英国の19.6%など米欧主要国を大きく上回る。特に政府による固定資本投資は、当該6ヶ国で最も高い水準だった。

近年、日本の潜在成長率が0.4~0.5%と低水準に止まる理由は、人口減少のペースが急速で労働投入量が減少基調であること、全要素生産性(TFP)の伸び率が低いこと・・・これら2点が構造的な要因である。投資額が不足しているのではなく、むしろ投資の質が問題なのではないか。

ちなみに、政府による投資は、本来、それ自体は利益を生まないものの、国家にとって必要な経済や社会のインフラ整備が目的と言える。従って、成長戦略としては機能し難い。例えば、半導体関連の投資促進を目指した米国の『CHPSアンド科学法』(以下CHIPS法)の場合、中国との競争を勝ち抜く安全保障、経済安全保障上の必要性が前提であり、成長戦略との位置づけではなかった。

■ 必要なのはばら撒きではなく集中

2022年8月9日、ジョー・バイデン大統領(当時)の署名により成立したCHIPS法には、半導体産業の投資を促進するため、527億ドルの支援策が含まれていた(図表3)。



個別企業で見ると、最大の補助を行ったのはインテルであり、TSMC、サムスン電子、マイクロン・テクノロジーなど巨大企業が続く(図表4)。米国企業には拘らないものの、米国における拠点整備が支援の前提だった。



日本の場合、民間の投資を誘発するための政府による産業、企業への補助金は、政策誘導、特に中小企業や新興企業などへの支援や育成が基本前提となる例が多い。結果として、米国が大規模、集中型なのに対し、日本は小規模、分散型の補助が行われるケースが主なパターンだった。



そうしたなか、CHIPS法に触発されたTSMC、ラピダスへの政府の支援は例外的だ。安全保障の環境、半導体産業の特性が背景と言える。問題は、ゼロからの立ち上げとなるラピダスの場合、政治的配慮により機動性に欠ける可能性、さらに上手く行かない場合の責任の所在だろう。

米国が成長産業の育成ではなく、国家に必要な事業への支援に集中するのは、半導体、インターネットの黎明期に関係するのではないか。東西冷戦下、半導体は砲弾の弾道計算、インターネットは分散型通信システム、それぞれ軍事上の必要性から開発が進められた。それが、民生用に応用され、結局、巨大な市場を形成したのである。

高市政権は、軍事、民生のデュアルユースを前提とした研究、技術開発の推進に踏み込み、武器輸出規制の緩和にも乗り出した。これは、世界的な潮流と言え、前向きな成長戦略と言えよう。



もっとも、投資に関しては、政府の補助を含め、量に拘るより、質を見直さなければ、財政を悪化させるだけの結果に終わりかねない。特にばら撒き型の成長戦略を避け、国にとって必要な事業に絞って集中投資する必要があるのではないか。


市川 眞一
市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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