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- ブラジル中銀はいつまで政策金利を維持するか?
ブラジル中央銀行は12月の会合で政策金利の据え置きを決定し、利下げの可能性については慎重な姿勢を示した。声明文ではインフレ見通しなどに変化が見られたが、利下げの示唆はなかった。経済指標ではインフレ鈍化の一方で、労働市場は堅調だ。ただし個人消費の減速に高金利の影響が懸念される。来年の大統領選挙が財政政策に与える影響などに注意しながら利下げ時期を占うことになりそうだ。
ブラジル中銀、政策金利据え置き、フォワードガイダンス維持
ブラジル中央銀行は12月10日に金融政策決定会合(Copom、以下会合)を開催し、市場予想通り、政策金利を15%のまま据え置くと発表した(図表1参照)。据え置きは4会合連続で、9人の委員の全会一致で決定した。
市場では12月会合での据え置きが確実視していた。注目は、次回(26年1月)会合での利下げを、今回の会合でブラジル中銀が示唆するかどうかに注目が集まっていた。声明文でブラジル中銀はフォワードガイダンス(金融政策の今後の方針)として、「現行水準で非常に長期にわたって維持することが適切」、「必要に応じて再利上げを躊躇しない」など従来の(据え置き)示唆にとどまった。
ブラジルのインフレ率は中銀の物価目標の範囲に収まりつつある
高水準の政策金利を維持するブラジル中銀が利下げを開始する時期について市場では早ければ来年1月という観測もあった。筆者は1-3月期と幅を持って利下げ開始を想定していたが、今回の会合でフォワードガイダンスの変更が見送られたことなどから、1月の可能性はトーンダウンした。
ブラジル中銀は今回の会合でもタカ派(金融引き締めを選好)姿勢を維持し、利下げ観測を打ち消す姿勢だったが、今回の発表内容の一部には、微妙な変化も見られた。またブラジルの経済指標の中には利下げが遠くはないことを示唆するものもあるようだ。まず、発表内容を確認する。
声明文では労働市場に関する表現が前回(11月会合)とやや異なった。主な違いを2点述べる。
1点目は労働市場に関する表現の違いだ。前回は経済が減速する中でも労働市場は「強さを示した」であったが、今回は「堅調さを維持した」と、微妙ながら表現を変えている。この変更を筆者は利下げの示唆とは思わないが、変化があったことを認識しておきたい。
2点目はインフレ見通しの下方修正だ。ブラジル中銀は今回、声明文で25年のインフレ率を4.4%上昇、26年は3.5%上昇とした。11月会合の25年が4.6%、26年の3.6%から下方修正した。ブラジル中銀はインフレ率が物価目標(3%±1.5%)の範囲内に収まりつつあることが示唆された。
次に、最近のブラジルの経済指標を確認する。まずインフレ率を消費者物価指数(IPCA)でみると、11月は前年同月比4.46%上昇と物価目標の上限にほぼ並んだ。短期的動向を示す前月比の伸びも0.18%上昇と落ち着いている。ブラジル中銀のインフレ見通しの下方修正とも整合的だ。
11月のインフレ率を押し下げた要因として、家具や家電などが挙げられる。反対に押し上げ要因にはホテル料金の高騰、住居費、電気料金などが挙げられる。ただし、ホテル料金高騰の背景は第30回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP30)開催という特殊要因もあったようだ。この要因がなければ、11月の物価上昇が若干鈍化した可能性があったかもしれない。しかし、ブラジル中銀の物価目標はあくまで中心値である3%で、そこまでの距離は残っている。物価の鈍化を認めつつ、慎重に利下げのタイミングを見計らう政策運営が、インフレ動向からはうかがえる。
GDPは減速傾向で、労働市場の堅調さが維持されるのか疑問も残る
次に、微妙に表現を変更した労働市場の経済指標を振り返る。11月末に発表されたブラジルの10月の失業率は5.4%と、前月の5.6%を下回った(図表3参照)。歴史的低水準での推移が続いており、ブラジルの労働市場は堅調である。
死角はないのか? 気になる数字もある。10月の失業率低下は労働参加率が61.9%に鈍化したことも反映しており解釈には注意が必要だからだ。また、失業率と同日に発表された10月の(登録)雇用者数の伸びは約8.5万人と、市場予想の11万人を下回った。労働市場は堅調というのが依然基本だが、注意すべき点も出始めたようだ。
労働市場のもととなる経済成長は緩やかながら減速傾向だ。12月4日に発表された7-9月期の実質GDP(国内総生産)成長率は前期比で0.1%増、前年同期比で1.8%と、ともに4-6月期を下回った(図表4参照)。前年同期比の伸びは24年7-9月期の4.1%増から4期連続で減速した。
産業別に成長への寄与を見ると、1年ほど前は下押し要因だった農業や鉱業はおおむね回復傾向とみられる。農業は天候も押し上げ要因であった。豊富な天然資源(鉱物、農業など)が成長と労働市場を支えているようだ。
一方、小売りや、最近では製造業にやや元気がない。小売り部門は今年7-9月期が0.9%増と、1年前の4.1%増に比べ消費が手控えられている。背景にはインフレが消費を抑制する要因となっていると考えられる。
需要項目別にGDPを見ると、個人消費は前期比で0.1%増と、前期の0.6%増を下回り減速傾向だ。設備投資は7-9月期は0.9%増と、前期の1.5%減から回復したが、設備投資は四半期ごとの変動が大きい。したがって一概に高金利の影響を見出しにくいが、景気調査などを見ると、高水準の実質金利には経営者から不満の声も多いようだ。
ブラジル中銀は財政政策やレアルの動向にも目を光らすだろう
ブラジルの物価、労働市場、GDPの各指標を眺めてきた。各指標に利下げを示唆する内容はみられ、利下げの条件は徐々に整いつつある。そのため、筆者は来年利下げ開始を見込むが、一方でブラジル中銀はタイミングを慎重に判断すると思われる。判断の難しさとして、たとえば、ブラジルの個人消費の減速の背景には金利高の影響が考えられるが、同時にインフレも消費の下押し要因とみられる。インフレ抑制と金利高の影響をバランスさせることは難しく、このことが判断を慎重にさせる可能性がある。
ブラジル中銀は財政政策にも目を光らせているだろう。ブラジル政府は消費減速に対し補助金政策で対応する傾向があるが、過去において、市場は補助金政策に対しレアル安で反応してきただけに目を離せない。
なお、ブラジルのアダジ財務相は12月10日にメディアとのインタビューで25年の基礎的財政収支(プライマリーバランス)がほぼ均衡すると見込んでいると述べた。ブラジルの財政目標は基礎的財政赤字ゼロ、許容範囲はGDP対比でプラスマイナス0.25%となっており、目標は達成しそうだ。
しかし、懸念は大統領選挙が予定されている来年の財政政策だ。過去の大統領選挙では財政の大盤振る舞いが合戦となることもあったからだ。大統領選挙の候補者は現段階では不確実だが、現職のルラ大統領(左派)は立候補の意向を正式ではないが表明している。
一方、右派陣営の候補者は定まっていないが、市場フレンドリーなサンパウロ州のフレイタス知事などに市場の期待が高まっていた。仮にフレイタス氏が候補となれば、公約のバラマキ合戦は避けられるとの読みだ。
しかし、12月5日にボルソナロ前大統領の長男フラビオ上院議員が来年の大統領選出馬へ父親の支持を得たとして出馬を示唆したことで雲行きが怪しくなった。仮にルラ対ボルソナロ氏の長男の一騎打ちとなれば、バラマキ合戦も懸念され、同日、一時的にレアル安が見られた。現段階では、仮定の話に過ぎない。急落したレアルだが、足元では落ち着きも見せている。とはいえ、大統領選挙は財政政策の先行きを占ううえで、注意が必要だろう。
ブラジル中銀は物価の安定を安定を最優先とし、各経済指標を参照しながら、レアル安の抑制や財政政策にも目を光らせる政策運営を行うと考えられる。市場の関心が高い利下げ開始時期については、インフレ鈍化などを背景に、早ければ来年1月に開始される可能性もゼロではないが、3月以降に開始される可能性が高いと筆者は考えている。ただし、来年は大統領選挙の年であることから、不確実性は高い点に注意が必要だ。
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