Article Title
次期FRB議長人事
市川 眞一
2025/12/04

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

ドナルド・トランプ大統領は、次期FRB議長について、2026年早々に人選を明らかにするようだ。あくまで短期間前提で起用したステーブン・ミラン理事の任期が1月末までだからだろう。ケビン・ハセット国家経済会議(NEC)議長が最有力候補だが、政権に近過ぎるため、金融政策の独立性に疑義が生じかねない。クリストファー・ウォラーFRB理事などの可能性も残っているのではないか。



Article Body Text

■ なぜ年明け早々なのか

12月2日、ホワイトハウスで行われた閣議の席上、トランプ大統領は、来年5月にFRB議長として任期を迎えるジェローム・パウエル議長の後任候補の決定について、「おそらく来年早々」と発言した。




連邦準備制度法によれば、1)理事の任期は前任者の務めた期間を含めて14年、2)議長、副議長は理事のなかから選任、3)議長、副議長の任期は4年だが、退任後も理事としての任期が残っていれば留任可能・・・の3つが法律上の規定だ(図表1)。トランプ大統領が送り込んだミラン理事の場合、辞任したアドリアナ・クグラー前理事の任期を引き継いだため、2026年1月31日で任期切れとなる(図表2)。同理事は、CEA委員長を退任しておらず、FRB理事はトランプ大統領が次の理事を任命するまでのつなぎだろう。




一方、5月に議長の任期を終えるパウエル議長は、理事として2028年1月まで留任可能だ。同議長が慣例を破って議長退任時に理事を辞任しない場合、次期FRB議長を外部から任命するのであれば、トランプ大統領は候補者をミラン理事の後任にしなければならない。

そうした事情から、同大統領は、年明け後、速やかに次期FRB議長候補を決める必要があるのだろう。その判断に沿って、ミラン理事の後任を任命する考えと見られる。

■ 人選による影響を探る展開へ

閣議と同じ日、トランプ大統領は、国民向けの新たな児童貯蓄口座の創設を発表するイベントに出席、同席していたケビン・ハセット国家経済会議(NEC)議長を「次期FRB議長候補」と評した。同大統領がこの時期に言及した以上、ハセット委員長が最有力候補であることに疑問の余地はない。


ただし、12月4日付けのフィナンシャルタイムズ(電子版)には、『債券投資家はハセット氏のFRB議長に任命について米国財務省へ警告』との記事があった。ハセット委員長が次期FRB議長に就任する場合、トランプ大統領の側近の1人であることから、金融政策の独立性に鑑みて、市場の信頼を得るのに苦労するのではないか。



ちなみに、FOMCの参加者は、FRB理事7名と12地区連銀総裁の計19名、このうち投票権を持つのはFRB理事7名、ニューヨーク連銀総裁、そして残り11地区連銀から輪番で4名の計12名だ(図表3)。現在の理事だと、トランプ大統領に近いのは、何れも同大統領に任命されたミッシェル・ボウマン副議長、ミラン、ウォラー両理事の3名だろう。一方、パウエル議長を含め、他の4名は政権と距離がある。また、地区連銀総裁は、各連銀の取締役会が選任し、FRBによって任命されることから、人事に大統領の権限が直接及ぶわけではない。



執行部を指揮するFRB議長が、金融政策に対して大きな影響力を持つことは明らかだろう。ただし、FOMCは金融政策の独立性を担保する法的構造に支えられている。次期議長が誰であっても、政権からの圧力と市場からの圧力の狭間で、バランスを意識せざるを得ないのではないか。

12月3日にADPが発表した11月の民間部門雇用統計は、雇用の減速を示す結果だった。担保付翌日物調達金利と先物のスプレッドは、12月8、9日のFOMCにおける利下げをを織り込む水準だ(図表4)。そうしたなか、年明け早々にも次期FRB議長が明らかになるため、マーケットはその人事によるインパクトを探る展開になるだろう。




市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


インフレ下のリフレ策によるインパクト

ロボットは米国の成長を後押しするか?

「弱い連立」に基づく高市政権