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FRBの政策を左右する3つのポイント
市川 眞一
2026/02/03

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概要

ドナルド・トランプ大統領は、次期FRB議長にケビン・ウォーシュ元FRB理事を選んだ。人選に手間取った理由は、同大統領のみならず、市場、承認権を持つ連邦上院の評価が重要だったからではないか。新議長の下、FRBの政策の行方は、1)ジェローム・パウエル議長の去就、2)リサ・クック理事に関する司法判断、3)地区連銀総裁の選出制度見直しの有無・・・の3つが握ると想定される。



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■ ウォーシュ氏が選ばれた理由

次期FRB議長の有力候補の1人であったケビン・ハセット国家経済院会(NEC)委員長の起用が見送られたのは、トランプ大統領との近過ぎる関係と見られる。大幅な利下げ観測から期待インフレ率が上昇、実質金利が低下してドルが急落する懸念があった。市場の評価は極めて重要だろう。




また、新議長への就任には、連邦上院の承認が必要だ。上院議員の場合、必ずしも党派に拘らず判断するため、FRBの独立性に疑念を持たれる可能性の強い候補者は、トランプ大統領といえども選べなかったのではないか。




トランプ大統領、マーケット、連邦上院、それぞれの評価の真部分集合として、ウォーシュ氏が残ったと見られる(図表1)。同氏の岳父であるロナルド・ローダー氏は、エスティローダーの創業者を父に持つ共和党の大口献金者だ。FRB理事としての経験、そしてローダー氏を通じた人脈が、トランプ大統領の判断に大きく影響したのだろう。

■ 重要なFOMCの制度設計

FOMCには、FRBの理事7名、12地区連銀の総裁、計19名が参加する(図表2)。このうち、金融政策決定の投票権を持つのは、FRB理事、ニューヨーク連銀総裁、残り11地区連銀総裁のうち年毎の輪番で4名、計12名だ。地区連銀総裁は、各地区連銀の取締役会が指名、FRBが承認するため、大統領が直接的に人事へ介入することはできない。金融政策に不満を持つトランプ大統領は、この制度の見直しを強く主張してきた。

他方、FRB理事の任期は14年であり、2年毎に任期切れを迎える。理事が任期中に退任した場合、後任は残りの期間が任期だ。パウエル議長は、理事としての任期が2028年1月まであり、議長退任後も留任は可能である(図表3)。


1月27、28日のFOMCで利下げを求めたのは、クリストファー・ウォラー、スティーブン・ミラン両理事だった。もっとも、ミラン理事は1月末で退任、その後任がウォーシュ氏である。



つまり、上院の承認により「ウォーシュ議長」が就任した場合、当面、米国の金融政策を左右するのは、新議長の手腕と共に、1)パウエル議長が理事を辞任するか、2)連邦最高裁判所がリサ・クック理事の解任を認めるか、3)地区連銀総裁の選出制度の改正があるか・・・の3点と言える。パウエル議長が理事として留任し、トランプ政権がクック理事の解任に失敗すれば、FRBの政策が急に大きく変わることは考え難い。



ウォーシュ氏の指名が発表された1月30日の段階で、シカゴマーカンタイル取引所(CME)がFFレート先物から算出した金融政策の変更確率を見ると、0.25%ポイントの利下げが現状維持を上回るのは議長交代後の6月だった(図表4)。もっとも、これは前日までとほぼ同水準だ。

パウエル議長がFRB理事も同時に退任するか、クック理事が解任されると、トランプ大統領に任命された理事が多数派になる。その場合、地区連銀総裁の選任にも影響が及ぶと見られ、FOMCはトランプ大統領の意向が反映され易くなるだろう。



市場はウォーシュ氏を相対的なタカ派と見ている模様だ。しかし、同氏がトランプ大統領の意に沿うよう努力しても、「ウォーシュ議長」だけでFOMCの方向性を短期間に変えられるとは思えない。少なくとも当面、パウエル議長の意志、そして最高裁の判断が金融政策を左右するのではないか。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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