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ベネズエラ介入のインプリケーション
市川 眞一
2026/01/09

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概要

米軍を投入、ベネズエラへのニコラス・マドゥロ大統領夫妻を拘束したドナルド・トランプ大統領は、中南米における他の左派・中道左派政権を牽制するだけでなく、デンマーク領グリーンランドの獲得にも強い意欲を示している。同大統領による『ドンロー主義』は、台湾の統一を図る中国との棲み分けを意図している可能性が否定できない。2026年、国際社会の分断は一段と深まるだろう。



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■ 背景はベネズエラの石油資源か!?

『米国の裏庭』と呼ばれる中南米だが、反米を貫いてきたキューバに加え、ベネズエラ、メキシコ、コロンビア、ブラジルなどで左派、中道左派勢力が政権を握り、近年は中国の進出が目立つ。トランプ大統領は、『ドンロー主義』を標榜、この地域での米国の影響力回復を図る意向のようだ。




第5代ジェームズ・モンロー大統領は、南北アメリカと欧州の相互不干渉を提唱、その政策は『モンロー主義』と呼ばれた。トランプ大統領は、自身のファーストネームであるドナルドを重ね、自らの外交・安全保障政策をドンロー主義と呼んでいる。




ベネズエラへの武力干渉に関しては、エネルギーへの関心も強く影響しているだろう。同国のオリノコ地域には超重油質のオイルサンド層があり、原油の確認埋蔵量は世界最大だ(図表2)。トランプ大統領は、1月3日、軍事作戦を説明した会見において、「米国の巨大石油会社を派遣し、数十億ドルを投じてインフレを修復する」と語った。米国内のシェール開発と連動させ、国際エネルギー市場を掌握する構想なのではないか。

もっとも、ベネズエラのオイルサンドは、地下600~1,000mに分布し、極めて粘性が高いため、生産コストは70~80ドル/bblと言われる。現在の原油価格だと、採算の見込みは甘くない。また、仮にベネズエラの生産量が増加すれば、需給バランスが崩れ、原油価格が下落する可能性がある。その場合、米国のシェール開発にはむしろマイナスに影響するだろう。トランプ大統領が、明確なエネルギー戦略を持っているのかは不透明だ。

■ 米中による地域棲み分けの可能性

米軍によるベネズエラへの介入後、トランプ政権は、敢えてコロンビア、メキシコなどに言及、米国への恭順を求めている。そうしたなか、特に目立つのがデンマーク領グリーンランドへの執着だ。


グリーンランドは、世界最大の島であり、面積がサウジアラビアと並ぶ217万k㎡に達する一方、9割を先住民のイヌイットが占める人口は約5万5千人に過ぎない。デンマークの旧植民地だが、1979年からは自治政府が統治を行ってきた。財政上、歳入の約半分をデンマークの交付金に依存しており、強まる独立論の障害になっている。



グリーンランドの獲得は、第17代アンドリュー・ジョンソン、第33代ハリー・トルーマン両大統領も検討していた。北米大陸と旧ソ連(現ロシア)の中間に位置するだけに、冷戦期に米国を率いたトルーマン大統領は、安全保障上の要衝と考えたのだろう。



トランプ大統領も、国家安全保障上の必要性を主張している。もっとも、真の狙いは、グリーンランドの地下資源ではないか。米国経済のアキレス腱であるレアアースを含め、多様な金属、亜鉛、水晶などが地下に埋蔵されていると見られる。

注目されるのは、今年4月にトランプ大統領が中国を、秋には習近平国家主席が米国を相互に公式訪問することだ(図表4)。米中関係が強化されるなかで、米国はグリーンランドから中南米までの西半球、中国は台湾の統一を含む東アジア・・・米中両国が強い影響力を確保する地域で棲み分けを行い、相互に不干渉とすることが、ドンロー主義の根幹である可能性は否定できない。



米国によるベネズエラへの軍事介入は、世界における地政学的リスクの高まりを改めて意識させた。一方、国際社会の分断は構造的なインフレの要因であり、資産市場へのマネーの流入は続くと想定される。ただし、地政学的リスクを考えた場合、一極集中を避け、金を含めた分散投資を一段と強化すべきなのではないか。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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