Article Title
EU首脳、復興基金で合意するも詳細は先送り
梅澤 利文
2020/04/24

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

今回のEU首脳会談では、復興基金の設置に大枠で合意となりました。同じ23日に公表されたユーロ圏の4月の購買担当者景気指数(PMI)が前月に続き歴史的低水準であったことを見ても、大規模な景気支援策が求められることは容易に想像できます。ただ、詳細が先送りされた要因は財源と見られ、ユーロ圏の財政問題が浮き彫りとなった面も見られます。



Article Body Text

EU首脳会議:「復興基金」設置で合意、ただ規模や財源など詳細は先送り

欧州連合(EU)の加盟国首脳は2020年4月23日にテレビ会議を開催し、新型コロナウイルスの感染が収束した後の経済対策について復興基金を設けることで合意しました。

基金は財政状況の悪い加盟国の支援に使われる見通しです。しかし、基金の財源や規模、仕組みなどの詳細には踏み込まず、合意は次回以降に持ち越しされました。

 

 

どこに注目すべきか:EU首脳会談、復興基金、財源、共同債

今回のEU首脳会談では、復興基金の設置に大枠で合意となりました。同じ23日に公表されたユーロ圏の4月の購買担当者景気指数(PMI)が前月に続き歴史的低水準であったことを見ても、大規模な景気支援策が求められることは容易に想像できます(図表1参照)。ただ、詳細が先送りされた要因は財源と見られ、ユーロ圏の財政問題が浮き彫りとなった面も見られます。

報道などから今回のEU首脳会議では、復興基金の設立ではまとまりましたが、財源や規模を巡り意見が集約できていない模様です。EU首脳らはEUの行政執行機関である欧州委員会に対し、5月6日までに妥協案を準備するよう指示したとも伝えられており、詳細を待つ必要がありますが、大枠は次のように想定されます。

まず規模については、基金の規模は1兆~2兆ユーロ(約116兆~232兆円)超という観測記事が見られます。実際、ミシェルEU大統領は記者会見で復興基金創設の意義を強調し、ミシェルEU大統領と共に会見したフォンデアライエン欧州委員長は億単位ではなく兆単位の話をしていると述べていることから、ある程度の規模は想定されます。

仮にその様な規模となると、財源が問題となります。一部報道では、EUの次期7ヵ年中期予算案に復興資金を計上して支出することや、新たな資金調達の仕組みを通じて資本市場からの借入れなどが候補となっているようです。

ユーロ圏の総論合意の最終的な落ち着き所を占うのは困難ですが、依然EUで影響力があると見られるドイツのメルケル首相が支援に前向きな点がポイントです。

その点期待はありますが、イタリアやスペインなど財政が厳しい国と、財政規律を重視するオランダやオーストリアとの間の溝は解消されていないようです(図表2参照)。イタリアやスペインは返済が必要でない融資として補助金を支持する一方で、自国民の税金が他国の支援に使われることを懸念するオーストリアなどは反対していると見られるからです。

ユーロ圏各国で債務を分かち合う共同債(いわゆるコロナ債)を発行する案は加盟国の立場の相違が大きく、議論は深まらなかった模様です。共同債は合意を形成することも難しい上、これから新たな仕組みを考える必要があり時間が必要です。目先は時間優先で必要な対策を揃えた結果なのかもしれませんが、物足りなさは残ります。

欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁はユーロ圏の景気後退は深刻でEU首脳に対策のスピードと規模に警告を発したそうですが、ラガルド氏の不満が解消したのかに注目しています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


ベージュブックと最近のタカ派発言

中国1-3月期GDP、市場予想は上回ったが

ECB、6月の利下げ開始の可能性を示唆

米3月CPIを受け、利下げ開始見通し後ずれ

インド、総選挙とインド中銀の微妙な関係

米3月雇用統計、雇用の強さと賃金の弱さの不思議