Article Title
東証市場再編の方針発表 ~詳細決定は先送り~
糸島 孝俊
2019/04/01

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

3月27日に「東証」市場再編の方針が決定された。今後の「市場区分」は、現状の4市場を、①C市場(企業数削減した東証1部)、②A市場(中堅企業)、③B市場(新興市場)の3つに再編成する。「市場区分」詳細は先送りされ、それ以外の課題も検討止まりと、マスコミ報道内容より後退したが、想定範囲の内容となった。今後の方針最終決定に期待したい。



Article Body Text

東証市場再編の方針発表~詳細は先送り~

3月27日、日本取引所グループ(JPX、東京証券取引所の親会社)は、パブリックコメントの回答としての『市場構造の在り方等に関する市場関係者からのご意見概要』と、方針決定としての『現在の市場構造を巡る課題(論点整理)』を公表した。

東証市場再編の方針決定は、予定通り3月末(27日)に発表されたが、これまで週刊経済誌や新聞などのマスコミ報道の刺激的な内容よりも後退しており、やや期待外れの印象だ。今回の決定は「市場区分」の明確なコンセプトだけの公表(論点整理)に留まり、前回レポート(3月15日付)で指摘した想定範囲の内容となったからだ。

 

「市場区分」は現状の4市場から3市場に再編~明確なコンセプトに~

今回3月27日のJPX発表の『現在の市場構造を巡る課題(論点整理)』によると、市場区分について「幅広い企業に上場機会を提供するとともに、上場後の持続的な企業価値向上を動機付ける観点から、既存の市場区分にとらわれず将来の市場構造の在るべき姿として、上場銘柄の特性(上場会社の成長段階、投資家の層)に応じた複数の市場区分を設け、明確なコンセプトに基づいた制度に再設計を行うことが適当」、「一般投資者の投資対象としてふさわしい実績のある企業(A市場)、国際的に投資を行う機関投資家をはじめ広範な投資者の投資対象となる要件を備えた企業(C市場)、高い成長可能性を有する企業(B市場)、(※)各市場の名称については今後検討」と記載された。

前回のレポート(3月15日付)では、「今後の市場区分は、現状の4市場を、①企業数削減した東証1部(グローバル/プレミアム)、②中堅企業(スタンダード/グロース)、③新興市場の3つに再編成するという可能性が高い」と指摘したが、今回発表と比較すると、①企業数削減した東証1部=C市場、②中堅企業=A市場、③新興市場=B市場、と概ね指摘に沿った内容となった。

なお、「市場区分」のコンセプトに基づく上場・退出基準は、概略発表されたが、詳細は先送りされた。

 

「企業価値向上の動機付け等」は検討止まり~重要なのは指数の取り扱い~

上場会社の持続的な「企業価値向上の動機付け」の点で期待される役割を果たせていないとの課題はあるものの、補完する仕組み等は検討止まりとなった。具体的には、ⓐ「他市場からの移行基準(市場第一部へのステップアップ基準)、新規上場基準、退出基準を共通化」、ⓑ「機関投資家参入促進のための方策の検討」、ⓒ「企業の成長段階・投資家層の厚みを踏まえた開示制度その他諸制度の最適化」、ⓓ「特にC市場(企業数削減した東証1部)においては、グローバルな機関投資家の視点等をより強調した基準により選定された銘柄で構成される指数や区分などにつき、投資者ニーズを踏まえて検討」、と発表された。

重要なのは、ⓓの「指数(インデックス)の取り扱い」をどうするか。前回レポート(3月15日付)に指摘したとおり、「重要なのは、市場構造の見直しに伴って、現在東証一部上場全銘柄で構成されているTOPIXの扱いをどうするか」である。今後、TOPIX指数がどうなるのか、何もわからないままだと、中小型株式に対してリスクを取れない投資家が増加する可能性が高くなることに留意したい。

 

東証市場再編の最終方針決定は今年9月末迄か?

東証の内部課題であった東証の市場再編が、成長戦略の一部に取り込まれる可能性もまだ残る。経済産業省や金融庁はガバナンス改革の一部として市場区分の見直しを位置付けようとしているからだ。仮に、成長戦略に方針を取り込むのであれば、政府が成長戦略を取りまとめる6月頃まで議論は続け、方針の詳細決定をするだろう。

ただ、JPX(東証)で今回公表されたパブリックコメント『市場構造の在り方等に関する市場関係者からのご意見概要』を丁寧に議論して論点整理を続けると、少なくとも3~6ヶ月の時間は必要だと推測される。そのため。今年9月末までに方針の最終決定(他の課題改善や詳細決定等)が見込まれる。


糸島 孝俊
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

証券系シンクタンクの企業調査アナリストを経て、日系大手運用会社にて投資顧問や投資信託の資金を国内株式中心に運用。その後、ヘッジファンドや独立系運用会社でもアクティブ・ファンドマネージャーとして従事。運用経験通算21年。最優秀ファンド賞3回・優秀ファンド賞2回の受賞歴を誇る日本株式ファンドの運用経験を持つ。ピクテでは、ストラテジストとして得意とする国内株式を中心に主要国株式までカバー。日経CNBC「昼エクスプレス」はレギュラーとして隔週月曜日を担当。テレビ東京「Newsモーニングサテライト」、BSテレビ東京「NIKKEI  NEWS NEXT」やストックボイス等にも月一回出演中。東洋経済オンラインでは月一回寄稿を配信中。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、国際公認投資アナリスト(CIIA)、国際テクニカルアナリスト連盟認定テクニカルアナリスト(CFTe)

運用経験年数 4年

●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


日本企業の問題点 法人企業統計より

大型経済対策は役に立つのか?

米短期金融市場とQTの今後を見据えた論点整理

日銀金融政策決定会合、どこに注目すべきか

トランプ政権下における金融政策

米半導体株に忍び寄る「米中貿易戦争」の影