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- 日米通商交渉合意の考え方
参議院選挙の余韻で政局が不透明感を増すなか、日米両国は通商交渉で合意した。ドナルド・トランプ大統領には、8月1日の相互関税再発動を睨み、EU、中国などとの交渉に弾みを付ける意図があるのではないか。日本に対する15%の税率は、今後の交渉のベンチマークになる可能性がある。ただし、仮に多くの国・地域と15%で折り合ったとしても、米国のインフレ圧力は高まるだろう。
■ 米国が重視するのは中国、EU
7月7日以降、トランプ大統領は五月雨的に25ヶ国・地域に対し8月1日から適用する相互関税を発表してきたが、インドネシアに続き、日本、フィリピンが交渉を決着させた(図表1)。もっとも、これまで交渉全般が順調に進んできたとは言い難い。
昨年における米国の貿易収支を見ると、赤字額が大きいのはEU、中国、メキシコ、スイス、ベトナムなどだ(図表2)。このうち、トランプ政権は、中国、EUとの交渉を特に重視しているだろう。
中国の場合、共和党、民主党を問わず、覇権を巡る挑戦に対し米国内の警戒感は強い。一方、レアメタル・レアアースの供給を絞られ、米国の自動車、半導体産業などは窮地に陥った。トランプ大統領としては、自身の面目が立つ形で、早期に決着を図りたいのが本音ではないか。
EUについては、30%の関税率が示された。EUが日本、中国と大きく異なるのは、米国の輸出額が大きいことだ。2024年の場合、対日輸出額は265億ドル、対中は400億ドルに止まったものの、対EUは1,314億ドルに達していた。
ウルズラ・フォンデアライエンEU委員長は、米国が高率の関税を課す場合、報復する意向を明確にしている。それが、レアメタル・レアアースとは違った意味で、米国の産業界にとり大きな痛手になる可能性は否定できない。同じく米国の輸出額が大きいカナダ、メキシコと共に、トランプ大統領はEUとも早期の合意を目指しているだろう。
■ 深まる分断、高まるインフレのリスク
昨年、米国の関税収入は814億ドル(約12兆円)だった。相互関税が予定通りに8月1日に発動された場合、関税税収は、今年が5,000億ドル(約73兆円)、2026年には9,300億ドル(約136兆円)に達する見込みだ(図表3)。輸出企業による値引きで吸収できる金額ではないだろう。
また、1-3月に相互関税の発動前の駆け込み輸入があったが、4月以降、米国の輸入額は平均的な水準から減少していない(図表4)。少なくとも当面、米国が国内で輸入代替品の供給を賄うことは不可能と見られる。
関税の大部分は製品・商品に価格転嫁され、結局、米国の消費者に転嫁されることになるだろう。消費者物価が大きく上昇し、トランプ大統領は国民の激しい怒りを買うことになりかねない。
つまり、トランプ大統領にとって、相互関税は交渉上の威嚇なのではないか。日本との合意を急いだのは、EU、中国、メキシコ、カナダとの交渉を進める上で、呼び水とする意図があるだろう。日本に適用する15%の関税率は、他の国・地域との交渉でもベンチマークになる可能性がある。
日本政府は、25%の相互関税を回避、既に適用されていた自動車・部品に対する25%の個別関税率も他の製品並みの15%へ引き下げることができた。日本企業にとり、15%の関税は新たな対米ビジネス上の障害だ。ただし、不確実性が低下し、事業戦略を立て易くなったことも事実だろう。
一方、トランプ大統領は、国内向けに日本との合意を成果として誇り、EU、中国などより難しい相手との交渉に臨むと見られる。もっとも、仮に相互関税の税率が15%、ベースライン10%の2つを中心に着地するとしても、2025年の関税税収は3,500億ドル、2026年は5.500億ドル程度になる見込みだ。関税率15%のニューノーマルは、国際社会の分断とインフレの象徴なのではないか。
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