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混沌とする日本の政治
市川 眞一
2025/10/14

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概要

公明党が自民党との連立解消を決めた。自公連立の継続を前提に、国民民主党などを取り込むことで、衆参両院で過半数回復を図る自民党の思惑は当てが外れた状況だ。結果として、衆参両院における首相指名選挙の帰趨は全く読めない。一方、事態を打開するための衆議院の解散も難しいだろう。日本の政治は流動化し、政策的には痛みを伴う改革・成長戦略の実施は難しくなった。



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■政権交代もあり得るが・・・

10月4日の自民党総裁選で高市早苗総裁が選出されて以降、政界は全く先の読めない状況に陥った。特に1999年10月から続いてきた自民党、公明党の連立は、2009年9月から2012年12月の野党時代も堅持されており、政策や政局を考える上での前提条件だったと言える。


単独与党となった自民党は、政権を決める衆議院において、定数465議席のうち、同党系無所属議員を含め197議席を有するに過ぎない(図表1)。次の内閣総理大臣を選出する首班指名選挙の帰趨は全く読めなくなった。


自民党単独で首班指名選挙に臨むケースでは、野党第1党の立憲民主党が148議席であり、自民党との差は49議席だ。仮に立憲民主党と日本維新の会、国民民主党が連携すると210議席に達し、過半数の233議席には届かないものの、政権交代の可能性が強まる(図表2)。



維新の会、国民民主党は、リベラル系議員を抱える立憲民主党に対して、強いアレルギー反応を示してきた。従って、所属議員数は多くても、立憲民主党の野田佳彦代表を次期首相候補とすることでは、3党の話はまとまらないだろう。国民民主党の玉木雄一郎代表、もしくは維新の会の藤田文武共同代表が軸になりそうだ。


ただし、この3党の間では、憲法改正、安全保障、エネルギーなど基本的な政策の違いが大きい。従って、現段階では連立へ向けた合意のハードルが低いとは言えず、まだ混沌とした状況だ。

■早期の衆議院解散は困難


「高市政権」が誕生した場合、状況を打破するため解散・総選挙が行われるとの報道もある。しかしながら、その確率は低いのではないか。


2024年10月27日に行われた総選挙において、自民党は改選前の261議席から同党系無所属を含め197議席へ大きく後退した。289小選挙区中、候補者を擁立したのは実質270区であり、当選者は138名だ(図表3)。もっとも、これは公明党との選挙協力があっての結果である。


自民党が議席を得た138区の候補者の得票から、公明党が当該小選挙区の比例代表で得た票を差し引いた場合、自民党が2位の候補を上回ったのは84選挙区に止まった。つまり、自民党単独だと、比例代表区を合わせた総獲得議席が、197から143へ激減する可能性が示されている。

一方、今年7月の参議院選挙において、大きく得票を伸ばしたのは、国民民主党、参政党、日本保守党だった(図表4)。自民党のみならず、立憲民主党や維新の会にとっても、今は解散・総選挙を行うのに得策な時期ではない。つまり、解散・総選挙で事態を打開するのは困難だろう。

欧州では、近年、ポピュリスト的な新興の右派政党の台頭が目立つようになった。また、米国における2大政党制は続いているものの、共和党は、最早、「トランプ党」と言えるほど大きく姿を変えている。欧米いずれも外国人に厳しい姿勢を示し、欧州では歳出拡大への圧力も強まった。

日本でも米欧諸国と同様の政治的変化が起こっているのではないか。ポピュリスト政党が勢いを得易い政治状況になった。政治は混沌の時代に突入し、国際的にも、国内的にも、分断が深まると想定される。また、財政支出の拡大圧力を求める声が、さらに強くなる可能性は否定できない。

政治的混沌と分断、地政学的リスクの高まりの下、経済面ではインフレへの備えが必要と考えられる。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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