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- 岐路に立つ米国金融政策
9月16、17日のFOMCで、FRBは0.25%の追加利下げに踏み切った。8月22日、ジャクソンホール会議の講演において、ジェローム・パウエル議長は明確な利下げ再開のシグナルを発しており、この決定に違和感はない。ただし、トランプ政権による関税・移民政策の影響を金融政策で緩和するのは難しく、雇用の最大化と物価の安定の狭間で、FRBは困難な課題に直面していると言えよう。
■ FRB内で見方は二極化か!?
17日、FOMC終了後に発表された声明には、前回委員会と比べ、新たに「雇用の下振れリスクが高まったと判断している」と書き加えられた。そうした見方を反映し、3ヶ月毎に発表される参加メンバー19名の経済見通しでは、今年末のFFレートについて、想定の中央値が従来の3.875%から3.625%へ低下している。0.25%ずつだとさらに2回の利下げを織り込む水準だ(図表1)。
もっとも、利上げ想定の参加者が1名、現状維持派が6名おり、ドットは2極化した。FRB内で判断が分かれているのだろう。それは、今の状況に金融政策がどこまで機能するかの議論でもある。
リーマンブラザーズが破綻する半年前の2008年3月末、家計の債務残高は可処分所得の134.3%に達していた(図表2)。そうしたなか、金利上昇による利払い負担の急増で、家計の収支が急速に悪化したことが危機の一因だ。
今年6月末、家計の債務残高は可処分所得の90.8%、リーマンショック期と比べ大きく低下している。ただし、2022年3月以降のFRBによる急速な利上げで、今年4-6月期における家計の利払い費対可処分所得比率は2.5%に達した。これは、リーマンショック期直前だった2007年4-6月期の2.8%をやや下回る高い水準だ。
ドナルド・トランプ大統領による移民政策の厳格化で、労働市場のパイは拡大が見込み難い。利払い費の軽減による消費の活性化は、トランプ政権の立場から見れば合理的な政策と言えよう。
■ 構造的要因で利下げには限界
ニューヨーク連銀が算出する6月末時点での中立金利は、HLWモデルで0.84%だった(図表3)。利下げ後の実質FFレートはその水準を0.7%ポイント程度上回っている。この中立金利を前提とすれば、米国の政策金利は、若干ながら依然として引き締め気味のスタンスを示すと言えるだろう。
一方、8月の消費者物価上昇率は総合指数が前年同月比2.9%、コア指数が同3.1%だった。FRBが正式な目標としており、26日に発表されるコア個人消費支出(PCE)物価の上昇率は、7月と同水準の同2.9%と予想されている。また、市場の織り込む期待インフレ率は、トランプ大統領が相互関税を発動した直前の4月8日、3.3%へと上昇した(図表4)。その後は落ち着く気配を示したものの、7月に入って再び上昇傾向だ。
ジャクソンホール会議において、パウエル議長は、「貿易政策と移民政策の変化は、需要と供給の両方に影響を与えている。(中略)金融政策は、循環的な変動を安定化させる効果はあるが、構造的な変化を変える力は小さい」と指摘した。
足下、労働供給の伸び悩みから雇用への懸念が高まり、消費に影響しつつある最大の要因は、トランプ政権の移民政策だ。また、高い関税税率の下、企業はコストを抑制して価格転嫁を遅らせてきたが、それも限界に近いだろう。つまり、関税によって物価はじり高が想定される。
パウエル議長の発言の意図は必ずしも明確ではないものの、トランプ政権の政策が構造要因として雇用の減速、物価の上昇の背景であると指摘した可能性は強い。つまり、現在の経済に対する金融政策の限界を強く意識していると考えるべきだろう。
今後、特に関税による物価上昇圧力が高まる見込みだ。政治的圧力の効果は不透明だが、FRBによる利下げには、幅、スピード、回数・・・結局のところ、いずれにも限界があるのではないか。
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