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- ベトナム株式市場はなぜ高騰しているのか?
ベトナム株式市場が大幅に上昇している。対米交渉により相互関税が20%で決着したことが背景だろう。厳格な移民政策で米国は人手不足に陥り、ドナルド・トランプ大統領が求める生産拠点のシフトは容易ではない。豊富な労働力を抱え、インフラが整備されたベトナムなどの中堅新興国は、米国との構造的な対立に直面する中国に代わり、世界の工場としての役割を担うのではないか。
■ 巧みな交渉による相互関税率20%
トランプ政権による関税の暴風雨にも関わらず、日本、米国など多くのマーケットで株価は堅調に推移してきた。もっとも、日米市場を大きく上回るパフォーマンスを示しているのがベトナムに他ならない。9月3日時点において、TOPIXの年初来上昇率は9.5%、S&P500は10.6%だが、ベトナムの代表的な株式指数であるホーチミンインデックスは32.7%に達している(図表1)。
直接的な理由は、7月2日、最高指導者であるトー・ラム共産党書記長が、トランプ大統領と電話による首脳会談を行い、米国の対ベトナム相互関税率が20%で決着したことだろう。4月2日に発表された当初の関税率は46%であり、ベトナム経済の先行きに対して懸念が強まっていた。
今年1-6月における米国の貿易収支を見ると、対ベトナムの赤字額は813億ドルであり、EU、中国、メキシコに次ぐ4番目である(図表2)。特にベトナムへの輸出額が7億ドルに過ぎず、米国の主要な貿易相手国としては際立って少ない。
それでも、トランプ大統領が20%の相互関税を受け入れたのは、米国の焦りが背景だったのではないか。4月9日、同大統領は市場の動揺により相互関税をわずか13時間で停止、3ヶ月間を交渉期間とした。しかし、米国が貿易黒字を計上する英国と5月8日に合意した以外、他の主要国との協議は進まなかったのである。ベトナムは米国の憂慮を巧みに利用し、有利な条件を引き出した。ホーチミン市場は、それを好感したのだろう。
■ 重要な労働力と産業インフラ
2024年におけるベトナムの年平均所得は4,490ドルで、米国の8万3,660ドルと比べ20分の1だ(図表3)。対中国でも3分の1に過ぎず、労働コストから見て、20%の関税率を課されても、ベトナムは米国市場で十分に競争力を確保できるだろう。
他方、ベトナムの人口は1億134万人で、14億人を超えるインドや中国の7%程度だ。もっとも、国民の平均年齢は32.8歳と若い上、昨年の合計特殊出生率は1.91に達した。2024年の労働力人口は5,713万人で日本の約8割だが、過去30年間、年率1.7%の高い伸びを示している(図表4)。
米国の出生率は1.62であり、自律的な人口維持に必要とされる2.05を大きく下回った状態だ。そうしたなか、トランプ政権は、不法入国者対策を強化、人手不足が深刻化しようとしている。
他方、トランプ大統領は、関税を梃子に米国への工場建設を強く主張してきた。しかし、米国には工場を建設する労働力が不十分で、且つ工場で働く人材を確保するのにも苦労するだろう。結局、米国国民の需要を満たし、インフレ圧力を制御するには、輸入に依存せざるを得ないと想定される。
それは、ベトナムなど低コストで質の高い労働力があり、産業インフラの整備に積極的な新興国にとって、極めて好都合な状況と言えよう。増加する労働力を先進国向けの輸出産業に振り向けることで、経済の高成長が期待できるからだ。
もちろん、気紛れなトランプ大統領による攻撃の矛先が、ベトナムなど新興国へ向く可能性はある。
それでも、ベトナム、フィリピン、マレーシア、メキシコ等の中規模新興国は、労働力を武器として今後も高成長を持続するだろう。主要先進国が軒並み構造的な人手不足に直面する一方、米中両国の長期的対立が想定されるなか、間隙を縫う形で中国に代わり「世界の工場」になり得るからだ。ベトナム株式の好調はその先駆けなのではないか。
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