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自民党総裁選における陰の主役
市川 眞一
2025/09/26

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概要

自民党総裁選挙が告示され、10月4日の党大会で投開票を行う。主役は5名の候補者だが、今回は2つの陰の主役が存在するのではないか。それは、野党、そして石破茂首相である。誰が次期総裁・首相であろうと、両院での少数を脱却する上で、連立の枠組み拡大が喫緊の課題だ。また、総裁選では、前回、党員投票で20万票に達した「石破票」の行方が勝敗を大きく左右するだろう。



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■陰の主役①:野党

今回の自民党総裁選の際立った特徴は、陰の主役の存在と言える。その1つは野党、特に日本維新の会、そして国民民主党だ。


自民、公明両与党は衆参両院において過半数割れしている。野党が一枚岩でない以上、10月上旬に行われる首相指名選挙は、決選投票になっても、自民党の新総裁が勝つだろう。


問題は来年1月に召集される通常国会だ。2026年度予算案を円滑に年度内成立させるためには、誰が自民党総裁、そして内閣総理大臣であろうと、年内における連立の枠組み拡大が喫緊の課題であることに疑問の余地はない。



従って、総裁選に立候補する5候補が掲げた主要政策は、野党の主張をかなり意識したものになった。例えば、林芳正官房長官を除く4名が、「ガソリン暫定税率廃止」を訴えている。8月1日、野党7党が共同で提出した法案に沿ったものだ。


また、高市早苗元総務相は、物価対策として立憲民主党が主張する「給付付き税額控除」、国民民主党の「『年収の壁』見直し」を公約に含めた。小泉進次郎農水相は「あらゆる選択肢を排除せず」とし、小林鷹之元経済安保担当相は日本維新の会が掲げる「現役世代の社会保険料負担軽減」を公約に盛り込んでいる。

少数与党の状態では、総裁選で勝利したとしても、自らの主張を政権の政策に反映させることは簡単ではない。従って、連立協議の妨げとならぬよう、各候補は独自色を敢えて抑えたと考えられる。


一方、財政政策については、支出拡大に抑制的な姿勢が目立った。一時は消費税減税に前向きだった高市氏も、「責任ある積極財政」を掲げている。長期金利の上昇と円安が、政策の修正を迫ったのではないか。


■陰の主役②:石破首相


大手メディアが9月20、21日に行った世論調査によると、「次期自民党総裁」として、最も支持率が高いのは高市氏であり、小泉氏、林氏と続いた(図表2)。ただし、総裁選の有権者はあくまで自民党所属国会議員、同党の党員だ。日本テレビが同党党員に限って行った調査では、小泉氏31.7%、高市氏28.0%、林氏15.3%の順である。

ちなみに、昨年9月27日の前回総裁選では、党員票69万6千票のうち、石破首相が20万3千票を獲得、トップの高市氏との差は僅か1,244票だった(図表3)。今回、この「石破票」の行方が、少なくとも党員票の結果を大きく左右する可能性は否定できない。つまり、石破首相は、今回の総裁選において、野党と並ぶ陰の主役と言える。

この点において優位に立つのは、官房長官として石破内閣を支えた林氏、政治資金規正法改正で国会論戦の矢面に立ち、コメ不足の苦しい場面で農水相に就任した小泉氏だろう。一方、過去1年間、石破首相への批判を続けてきた高市、小林両氏にとり、「石破票」を期待するのは難しそうだ。

今回の自民党総裁選の行方については、『高市・小泉両氏軸』(9月22日付けブルームバーグニュース)との見方は少なくない。もっとも、高市氏の場合、前回の総裁選で同氏を支持する傾向が強かった旧安倍派の国会議員が39名減少した上、「石破票」の取り込みが課題と言える。決選投票になる可能性が高いなかで、「小泉vs.高市」の構図に林氏が割り込む可能性は否定できない。

もっとも、総裁選、両院における首相指名選挙が終わり、新内閣が発足すれば、連立協議が活発化すると見られる。その場合、政策について最も強い影響力を持ち得るのは、自民、公明両党ではなく、新たに加わる現在の野党ではないか。特に政権へ最も近い位置にいるのは日本維新の会と見られ、自民党総裁選の行方と同時に、同党の振る舞いにも注目すべきだろう。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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