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ロボットは米国の成長を後押しするか?
市川 眞一
2025/11/06

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概要

ドナルド・トランプ大統領が厳格な移民政策を実施、米国では人手不足感が一段と強まっている。結果として雇用が拡大せず、景気に黄色の信号が点灯した。アマゾンなどが人工知能(AI)やロボットを活用、自動化、省人化をさらに加速させていることで、経済成長は維持されるとの見方もある。しかし、少なくとも当面、影響は避けられないだろう。ロボットは消費に寄与しないからだ。



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■ 格差による移民への風当たり

米国では、2000年代に入って高所得者層とそうでない層の所得格差が大きく拡大した。背景にあるのは産業構造の転換だろう。2000年に15.1%だったGDPに占める製造業のウェートは、2024年に9.8%へと低下した(図表1)。この間、情報・通信・金融の比率は23.9%から26.8%へ上昇している。製造業中心の産業構造では、労働者の多くが工場で働き、格差は大きくなり難い。他方、クラウドサービスや人工知能(AI)が示すように、IT系が産業の主流になると自ずと格差が拡大する。


特に製造業は中国やASEAN、メキシコなど相対的に低賃金の国・地域とコスト競争を迫られ、生産に従事する労働者の間では、格差の拡大に対して不満が高まっても不思議ではない。それが、米欧の多くの国で、低所得者層を中心に移民への不満の根源になっているのではないか。


結果として、近年、米国のみならず、欧州でも厳しい移民政策を訴える政治家、政党が支持を集めている。トランプ大統領は象徴的な存在だろう。



一方、米国経済は、移民人口と概ね同じペースで成長してきた(図表2)。不法滞在者を含め、流入の続く移民が生産活動に参加し、消費することで、経済成長に寄与してきたと考えられる。


第1次トランプ政権下、政府の政策に加え、新型コロナ禍もあり、移民人口と経済のギャップが大きく拡大した。ジョー・バイデン大統領の時代、移民人口は増加に転じてギャップは緩和されたが、第2次トランプ政権により再び拡大しつつある。

■ ロボットは消費に寄与しない


第2次トランプ政権が発足してから、政府閉鎖前で統計が発表されていた8月末を比較すると、米国の移民人口は100万人減少した(図表3)。これは、非農業雇用者の0.6%に相当する。米国は再び深刻な労働力不足に陥る可能性が強い。


アマゾンなど超大手企業は、AIを駆使、ロボットを投入することで、人手不足に対応しようとしている。労働集約型の仕事に従事してきた移民人口が減少しても、技術力でそれを乗り越え、米国の成長力は崩れないとの見方もあるようだ。


労働力不足の緩和に関して、そうした観測は正しいと言える。ただし、経済成長については、大きく見落としている課題があるのではないか。

2024年における米国のGDPの構成では、民間消費支出は67.9%に達している(図表4)。中国の39.1%は極端に低いとしても、日本の54.6%、ユーロ圏の53.0%と比べ、米国は個人消費に大きく依存した経済構造と言えるだろう。

ロボットは生産に従事することは可能だが、基本的にエネルギー以外の消費をしない。他方、移民は不法滞在者か否かに関わらず消費をする。つまり、移民を排除して人手不足をロボットで補う場合、供給面の問題は緩和できるとしても、需要の伸びが減速する可能性が十分にあるわけだ。

また、AIやロボットに投資できる事業者は今のところ限られるため、中小零細企業は人手不足から逃れられず、格差はさらに拡大するだろう。それは、社会の分断の深刻化を通じて、政治的不安定化を一段と加速させる要因になりかねない。

11月4日に行われたバージニア、ニュージャージ両州知事選挙、ニューヨーク市長選挙では、何れも民主党候補が勝利した。特にニューヨーク市は、民主党内でも最左派のゾーラン・マムダニ州下院議員が当選している。景気の減速と格差の拡大は、来年の中間選挙をより不透明にするだろう。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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