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- 米国景気の現在地
10月28、29日のFOMCで、FRBは0.25%ポイントの利下げを決めた。政府機関の一部が閉鎖され、多くの経済指標が入手不可能となるなか、民間の統計を見る限り、米国景気には後退局面入りするリスクが高まっている。背景はトランプ政権による関税、移民政策だ。労働市場の縮小、物価高により、消費者心理は悪化した。一段の利下げが実施されても、その効果は限定的だろう。
■雇用は失速ぎみ
政府による経済指標の発表が極めて限られるなか、米国景気の現状を探るには、民間の統計に頼らざるを得ない。代表的な指標は、オートマティック・データ・プロセッシング社(ADP)が集計する民間雇用者数だ。労働省の雇用統計における非農業雇用者の約20%をカバーしており、両指標の結果は概ね連動してきた(図表1)。
ADPのデータを振り返ると、9月は前月比3万2千人減であり、2ヶ月連続のマイナスだ。7月が10万4千人増だった反動もあるが、雇用の減速を示していることに疑問の余地はない。
また、米国供給管理協会(ISM)の製造業、非製造業の雇用指数を使って労働市場全体の雇用指数を算出すると、9月は47.4だった。好不調の基準となる50を4ヶ月連続で割り込んでいる。
8月22日、カンザスシティ連銀主催のジャクソンホール会議で講演したFRBのジェローム・パウエル議長は、労働供給力の低下により、低失業率が続く一方、雇用の伸びが失速して個人消費が落ち込むリスクに言及した。トランプ政権による移民政策の影響を意識した発言だろう。
個人消費がGDPの約7割を占める米国経済では、雇用は景気に直結する。ドナルド・トランプ大統領が進める国境管理の強化、不法滞在者の強制送還は、パウエル議長が指摘した通り、労働供給力を縮小させる要因だ。結果として、人手不足が常態化し、失業率は低い。一方、生産・消費のパイが拡大せず、景気の下押し圧力になっている。
■スタグフレーション長期化の可能性
トランプ政権の政策の柱は、移民政策の厳格化、そして関税である。9月の純関税税収は296億7,500万ドルであり、平均的な水準の4.5倍になった(図表3)。それは消費者物価(CPI)を2%ポイント程度押し上げるインパクトであり、4月以降、消費者物価は徐々に上昇ペースを加速している。
雇用の絶対数が伸び悩むなかで、インフレ傾向が続くとすれば、消費者心理の悪化は避けられないだろう。ミシガン大学の消費者信頼感指数は53.6へと低下、消費の減速を示唆している。11月28日はクリスマス商戦の初日とされるブラックフライデーだ。その時期を前にしての消費者心理の停滞は、景気全般に与える影響が懸念されよう。
率直に言って、ジャクソンホール会議でのパウエル議長の講演を聞くまで、多少の減速はあっても、米国経済は底堅いと考えていた。過去を振り返ると、失業率が低水準で維持される場合、米国景気が後退局面に至ったことがないからだ。トランプ政権の移民政策で労働供給が絞られる結果、雇用の拡大が止まっても、低失業率・高賃金状態が続き、消費が支えられると想定していた。
しかしながら、パウエル議長の指摘通り、雇用の拡大がなければ、個人消費主導の成長持続は難しいだろう。さらに、関税によるコスト上昇が、企業業績と家計を圧迫する可能性は否定できない。
この景気が厄介なのは、FRBの利下げによる景気浮揚の効果が小さいと見られることだ。言い方を変えれば、金利が下がっても、労働力人口は増えないし、関税負担が減るわけではない。
一方、FRBは十分な流動性を供給しており、金融システムは基本的に健全な状態にある。従って、米国経済が何等かの危機に陥るリスクは小さいだろう。また、仮に景気が後退局面になっても、深いものではないと想定される。むしろ、スタグフレーションの状態が、だらだらと続くのではないか。
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