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米国株式投資戦略 チキンレース化する米国株式市場
田中 純平
2019/07/10

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概要

注目されたG20大阪サミット(6月28日-29日)では米中貿易協議の再開方針が示され、さらにはFRBの利下げ期待が同時に高まったことが米国株式市場の上昇要因となりました。しかし、楽観的な見通しを示す米国株式市場とは異なり、米国債市場では依然として長短金利が逆転したままの状態であり、市場によって乖離が生じています。



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流動性相場が株高をもたらす

大阪で開催された20カ国・地域首脳会議(以下G20)において米中貿易協議の再開方針が示されたことや、ファーウェイに対する規制緩和、さらにはFRB(米連邦準備制度理事会)による利下げ観測の高まりによって流動性相場が同時に生じたことが、足元で米国株式市場が上昇した要因です。しかし、ここで重要なのはそもそも利下げ観測が高まった背景だと思います。G20では米中貿易協議の再開方針が示されたものの、発動された追加関税は維持されたままでした。つまり、景気に対する下振れ圧力が継続する中で、尚且つFRBのハト派スタンスが確認されたことが利下げ観測につながったと解釈されます。米中貿易協議が決裂した今年5月以降、景気後退シグナルとされる米国債の長短金利(10年-3ヵ月)の逆転が継続中であることとも整合的です。それにもかかわらず、S&P500指数はG20以降に最高値を更新する展開になっており、2つの市場に乖離が生じているのです。

 

 

そもそも何故、米国債市場と米国株式市場に乖離が生じるのか?

これらの乖離は、各市場における市場参加者の投資期間の違いにあると考えます。一般的に、米国債市場の市場参加者は比較的長期の材料を重視する一方、米国株式の市場参加者は比較的短期の材料を重視する傾向があります。今回のケースでは、米国債市場が長期的な景気見通しを材料に逆イールド化を進めた一方、米国株式市場は今年7-9月の利下げ観測を材料に株高を進めたということになります。しかし、仮に米国債市場の見通しが正しいと仮定するならば、米国株式市場も長期的には景気悪化が織り込まれるかたちで逆風が吹くことになります。そのため、米国株式市場はチキンレース化(※長期的には景気悪化による株安が想定されるものの、短期的な流動性相場による株高に期待する投資行動が広がること)の様相を呈してきたと言えるわけです。長期投資を重視する投資家であれば、米国株式に対しては引き続き慎重な投資スタンスでのぞむ必要があると考えます。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、14年間一貫して外国株式の運用・調査に携わる。主に先進国株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。アメリカ現地法人駐在時は中南米株式ファンドを担当、新興国株式にも精通する。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場をカバー。レポートや動画、セミナーやメディアを通じて投資戦略等の情報発信を行う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBCに出演中。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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